第3章 ナン
よっぽど疲れていたのか慣れないはずの寝床でもかつてない位ぐっすりと眠った。
翌朝、朝早くから畑に出ていた習慣からだいぶ早く目が覚めてしまった。
夜明け前の後宮は鎮まり返っている。
この部屋には寝台が二台あるが、もう一台は使っている形跡がない。
(ネコさんはどこで寝ているんだろう。)
少しだけ期待していたが、やっぱり枕元には服は用意されていなかった。
(……一体いつまで裸にさせておく気なのかしら。)
慣れろと言われてもこの姿では朝の散歩に出る気も起きず。
寝台の上の方に付いている小さな窓から朝日がうっすらと差し込んできた。
(何が見えるのかな………)
私は好奇心に駆られ、寝台の上に立ち上がり背伸びをして小窓の外を覗いた。
後宮御殿はお城の真ん中の方に据えられているが、ここはその外れの外れなので小窓からは城の広い庭地が少しだけ眺められた。
(うわあ、綺麗だなあ。)
少し離れた所に見える「武道場」に、たった一人で黙々と弓を射ている若者がいた。
真摯な横顔が朝日に照らされてとても美しい。
もっと見てみたくてさらに伸び上がったら――――
ビタ――――――――ン!!
バランスを崩して床にひっくり返ってしまった。
「うるっさいわね!目が覚めちゃったじゃないの!!」
姫様が寝間着のまま乗り込んできた。
「……⁉寝台から落ちちゃって……」
「怪我してないだろうね?」
私は頭(かぶり)を振る。
「まったく気をつけてよ!あーアタマ痛っ。」
頭を掻きむしりながら出てゆく姫様を私は追う。
姫様の乱れた寝台の脇では既にきちんと起きたネコさんが水差しと洗面器をそろえていた。
「ネズも顔洗ってきな、水場はあっち。」
私が水場から戻ると、姫様も洗顔とお化粧を済ませていてネコさんの手で髪を綺麗に結い上げられていた。
(……黙ってれば美人なのに。)
「何だって?!」
「………っ…何でもないですっ」
朝食が運ばれてきた。
朝は自室で食べることになっているらしい。
「……食べたくないわ、あなたたちが食べて。」
姫様はいい匂いのするお粥の器を押しやる。
その時―――――
「まーた飲み過ぎ?」
水音の様に涼やかな声が響いた。