第3章 セイロウ島
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「ご活躍が新聞に載ってるよ」
案内された書斎の応接スペースで、マダム・シュミットはテーブルの上の新聞を示した。
一面に載っていたシェレンベルク逮捕の報に興味を引かれて、ローは新聞を開いた。
「てっきり殺したかと思ってたんだがな」
「……あんな悪党は人知れず死ぬより、正義の手で公開処刑されたほうが遺族にはマシってもんだよ」
煙管に火を入れてマダム・シュミットは煙を吐き出した。その眼差しはどこか遠い場所を見ているように思えた。
「なんで女たちを海軍が助け出したことになってる?」
「手柄をやる代わりに、在任の司令官をもっと有能な奴に変えるよう交渉したんだね。あんたたちの活躍は盛って話しておいてやったよ」
「拷問好きのシェレンベルクを鎖で巻いて海に沈めては引き上げ拷問し、最後はクルーごと海賊船に火をつけたって? ……それでこの額か」
折り込みで入っていた自分の手配書を見て、ローはシニカルに笑う。
なんとまさかの八千万ベリー。億超えまでもう一息。惜しい。新聞を叩きつけてローはすごんだ。
「誰が頼んだ」
「燃やしちまったもんは仕方ないだろ。海軍がやるわけがないし、下手人が必要だったのさ」
「おとなしく自首しろ!」
「あたしが捕まると困るお偉いさんが海軍にも多くてねぇ。いいだろ、減るもんでなし」
むしろ悪名と懸賞金は上がったしねぇ、と一人でウケてマダム・シュミットは大笑いした。
「なんで俺がてめぇのやったことをひっかぶらなきゃならねぇんだよ……」
「おや、不服かい?」
「当たり前――」
「グランドラインに17の分館を持つ、この夜の女主人が今後便宜を図ってやろうってんだよ。女たちの情報網を甘く見るんじゃない。男どもがベッドでどれだけ油断して機密情報を喋ってると思う? その情報が欲しくは――」
「いるか、そんなもの」
にべなく言われてマダムは作戦を変えた。
「いざって時にの面倒を引き受けるあてもいらないって?」
沈黙の末、あっさりと船長は折れた。
「娼婦にはするなよ」
「あの子が望まなきゃね」
不服そうに顔をしかめるローを、マダム・シュミットは呆れ顔で見返した。