第3章 セイロウ島
「…………」
なんでこう相性が悪いのかとローはため息をこらえた。がああいう女なら、全裸で踊っててもあしらう自信があるのに。
(……違う。そうじゃないから船に乗せたんだろ)
すべてに絶望しながら、それでも彼女は生きようとしていたから。
初めて会った日のを思い出せば、欲望の対象にするなんてとんでもなくて、頭が冷えた。
いつかがどこぞの男に惚れて、一緒に生きていくと決めたら送り出す。船長として自分ができる唯一のことだ。
「――ROOM」
ハイエナのように狙う女たちが待ち構えているのに出ていくなんてできるわけがなく、ローは能力で服と刀を取り寄せると、着替えてバスルームから直接能力で廊下に出た。
隣の部屋をノックすると、中からマダム・シュミットが扉を開けた。ローを見てちょっと意外そうな顔をする。おそらく娼婦たちが追撃しているのを知っていたんだろう。
「は?」
「さっき風呂に入れて、寝たところだよ。当分は起きれない」
「顔を見に来ただけだ」
火花が散らない程度に視線が交錯し、譲ったのはマダム・シュミットだった。
「静かにね」
日当たりのいい部屋の清潔なベッドで、くーくーとは寝息を立てて眠っていた。朝方までずっと声がしていたから、相当疲れたんだろう。枕元までローが来ても、起きる気配がなかった。
「ふ……くく」
寝顔を見て唐突に笑いだしたローを、マダム・シュミットが怪訝そうに見やる。
(ああ、そうだ。は――)
船内で転んでは罠だと言いはったり、ベポに毛皮を貸してくれとせがんだり。海獣に食べられそうなペンギンの味を心配したこともあった。
そういう無邪気さがの本質で、そんな彼女を欲求の対象として見たことはない。昨夜のは完全に媚薬と酒のせいだ――。
「安心した。大丈夫そうだ」
無邪気な寝顔を眺め、一緒に航海できないようなことはないとローは自分の状態に結論を出した。
「ひどい男だね。笑うために寝顔見に来たのかい」
「別に笑いに来たわけじゃない。こっちの事情だ。……それより話がある」
部屋の外でと示すと、マダム・シュミットは肩をすくめて了承を示した。