第3章 セイロウ島
「何を心配してるのか知らないが、あの子は娼婦に向いてるよ。天性の体を持ってるし、セックスを嫌がらない」
「天性って……」
「手を出さなくて正解だよ。一度手を出したらやみつきになって、船のルールなんて崩壊するね。最悪は刃傷沙汰で海賊団は壊滅だ」
グランドラインに17の娼館を持つ、夜の女主人の断言は恐ろしいものだった。
顔を覆ってローはうめいた。
「勘弁しろよ、こっちはずっと一緒に船で航海するんだぞ……」
「不安なら置いていきなよ。きっちり面倒は見てやるさ」
「そんな真似ができるか」
「ならあんたが目を光らせるんだね、鬼船長として」
結局それか。
やけくそになってローはソファの背もたれに乱暴に体を預けた。
「ああ、近づく野郎はみんな解体すればいいんだろ」
「独占に嫉妬した他のクルーに刺されない程度にね」
「…………」
船長って一番の貧乏くじのような気がしてきた。魂が抜けていくような気分でローは天井を仰ぐ。
「……くじけそうかい」
「おかげさまで」
「まあ、あれだ。ここにいる間に、には自衛の心得を教えておくよ。火遊びで妊娠したらまたあんたの心労が増えるだろうしね」
いけ好かないクソババアが急に女神に思えてきた。
「顔に出すぎだよ。ぶっ殺すよ」
◇◆◇
「マダム! 船長さんを知らない!?」
逃げられたことを悟った娼婦たちが、どっと女主人の書斎に押しかけた。
「用があると言ってを連れて出かけていったよ。逃げられたのに未練かい」
だって、と娘たちは頬を膨らませた。
「マルガリータもジルもヴァレンティーナも、彼は紳士的で優しかったって自慢するのよ! その上マダムが億超えするって言うような将来性のある男! どうしても寝てみたいわ!」
「クルーがあと二人いるだろう」
「あっちは一回寝たけど、うーん……二人とも出航まで居続けして男の限界に挑戦するとか言ってるし、まあいいかなって」
気の毒なことにシャチとペンギンの評判はあまり芳しくなかった。それは彼らの将来性があまり明るくないことを意味する。
男の将来性を嗅ぎつける娼婦の嗅覚はミンク族よりすごいのだ。