第3章 セイロウ島
窓からの月明かりしかない部屋でもはっきりわかるほどマルガリータは赤面し、涙目でローを睨んだ。
(なんて女をよこしてんだよ……っ)
娼館で誰でもいいって言ったら処女が来た――誰が信じるそんな話。
顔を覆ってローはうめいた。なんだこの展開。
やる前で良かった、と思いつつローは脱いだ服を探した。
「初めてなら名前を呼ばれるのも嫌な海賊じゃなくて、惚れた男のところに行け」
「いないわ、そんな男! バカにしてるの……!?」
もう一発ビンタが飛んできて、ローは慌ててよけた。
「してない。話を聞け……っ」
興奮からとうとうマルガリータは泣き出してしまった。
「国を追われて……っ、もう二度と帰ることなんてできない。マダムは私達を助けてくれたけど、いつまでもタダ飯ぐらいじゃいられないわ。娼婦になってマダムの役に立つって決めたの! 私に不満があるなら言いなさいよ、直すから……っ」
泣きながら両手を振り回すマルガリータの手首を掴んで、ローはあまりにもか細い体で、こんな時代を必死に生き抜こうとしている女を抱きしめる。
「不満なんかない」
言いながら「平手はちょっと」と思ったが、泣いてるマルガリータにそれを言うわけにもいかず、ローは彼女を再び寝台に押し倒した。
「目をつぶって、羊でも数えてろ」
「寝るやつでしょそれ」
「静かでかえって助かるな……いてっ」
クッションで殴られ、「客を殴るなよ」とローはぼやいた。
「なんで? 喜ぶんでしょ?」
「少数派だ、そういう男は……」
本気で喜ぶと思っていたのか、マルガリータは一気におとなしくなった。
細い腕を回し、キスしようとしたマルガリータをローは押し留めた。
「それは惚れた相手ができた時にとっておけ」
「……あなたって存外、ロマンチストなのね。海賊のくせに」
「うるせぇな、性分だよ。放っておけ」