第3章 セイロウ島
部屋へ行って一人になると、どっと疲れが襲ってきた。今ベッドに横になったら3秒で寝る自信がある。
(いっそそれもいいか……)
後のことは知らんとベッドに横になり、意識が薄れかけた10秒後――隣から聞こえて来たの声に、ローは飛び起きた。
「ぁ……や!」
(壁薄いにも程があるだろ……っ)
切ないの啼き声に、抱きつかれた柔らかい感触と手のひらにされたキスの温度を思い出して心臓が跳ねる。
(ああ、クソ……)
図らずしもスイッチが入ってしまった。
タイミング良くと言うべきなのか、そこに娼婦が酒を持ってやってきた。
「……?」
情事には似つかわしくない気配に、ローは困惑する。
やってきた亜麻色の髪の娼婦は、敵意を持ってローを睨みつけていた。
◇◆◇
ベッドと2人用の応接セットがあるだけの狭い部屋で、ローは自分に敵意をむき出しにしてくる娼婦と対峙していた。
一応鬼哭はすぐ手の届く位置にあるが、飛びかかってくる気配もない。
氷とグラス、それに酒を乗せた盆を持って立ちすくむ長い亜麻色の髪の女は、ふいと視線をそらして言った。
「マダムが……あなたに謝りに行けって言うから」
「……?」
だいぶ考え込んで、ローは自分を撃った娼婦だと思いだした。
「あれはかすっただけだ。……確かマルガリータ、だったか」
「海賊に名前なんて呼ばれたくないわ! わ、私、謝らないから!」
「謝りに来たんじゃねぇのかよ」
とりあえず敵意の理由は知れて、刺されるほどではなさそうだとローはベッドに座り直す。
がっちゃんがっちゃん音を立てて、マルガリータはラムのオン・ザ・ロックを作成した。それをローに叩きつけるようにして差し出す。
「撃って悪かったわね!」
「ずいぶん豪快な謝罪だな……」
態度とは裏腹に、マルガリータの顔は真っ赤だ。受け取らないと謝罪を受けたことにもならなさそうなので、ローはグラスを受け取ると一気に飲み干した。空になったグラスを押し付けて返し、「わざわざどうも」とおざなりに答える。