第3章 セイロウ島
「ほら、これで一件落着だろ。これ以上うちの自慢の娘たちを拒む理由はないはずだ」
勝ち誇った顔でマダム・シュミットはを再び抱き上げ、下船のために甲板へ向かう。
「おい……っ」
追いかけないわけにはいかず、ローも続けて下船した。
◇◆◇
マダムに案内されたのはサロン・キティの分館だった。焼け落ちた本館に比べると小さく、内装も本館ほどの高級感はないが、慣れ親しんだ安宿という雰囲気でかえって落ち着くような気もする。
「船長さんやっと来た~!」
入るなり酔った下着姿の女に勢いよく抱きつかれ、ローは後ろに倒れ込みそうになるのをこらえた。
「ダメよベネッタ、抜け駆け禁止って言ったでしょ」
「そーよそーよ、待ってたのあなただけじゃないんだからね!」
絨毯の敷かれた入り口ホール兼ロビーには、部屋が足りないのだろう、20人ほどの娼婦たちが集まってわいわいと酒盛りをしていた。
(まさかこれ全部相手にしろって……?)
あまり女に熱心な方じゃないローには、別の意味で青ざめる光景だった。
「恩人を絞り枯らす気はないさ。好きな子を選びなよ」
意地悪く笑ってマダム・シュミットは言う。完全に遊ばれている気がする。
「ああ、イく……! ミネルヴァちゃん最高!!」
シャチの声が聞こえて来て、ぎょっとしてローは声のしたほうを振り向いた。吹き抜けになっている2階の客室のドアはどれも閉まっているのだが――。
「悪いね、こっちはちょっと壁が薄いのさ」
「ちょっとか、これ!?」
ベニヤ板でももうちょっとマシな気がする。
(つーかあいつ、に本気だの惚れただの言ってた割に普通に他の女を抱いてんのか……)
それはそれ、これはこれなのかもしれないが、ローにはちょっと感覚的に理解できない行動だった。少なからず嫌悪感さえある。
(あいつの惚れた話は二度と信用しねぇ)
船を下りてでもを幸せにする覚悟があるならそれもありかと思っていたのだが、ありえないとローは完全に考え直した。次に言い出したら遠慮なく海に放り込んでやる。
当のはと言えば、女たちに完全に遊ばれていた。