第3章 セイロウ島
まさかに危害を加えるとも思えないが、何をする気なのかと思わず聞き耳を立ててしまう。マダム・シュミットの地声は大きく、会話が聞こえてきた。
『バカだね、あんた自分でもしてないのかい。ああもう、指を噛むんじゃないよ! 歯型だらけじゃないか』
『うちの船は禁止なの』
『それまで禁止したら船は沈没するよ。欲求不満で集中力欠いて重大なミス連発になるだろ』
『……やっぱりそうかな?』
のとぼけた返答があったかと思った次の瞬間、を毛布にくるんで抱き上げたマダム・シュミットが内側から女子部屋を蹴り開けた。
「ちょっと待て、どこ連れてく気だ……っ」
「上だよ。みんな盛り上がってるのに一人だけ仲間外れになんてできないだろ」
「急に静かになったのはみんな船を下りたの?」
「そうだよ、島に戻ったのさ。みんな宴で騒いでるのに一人ぼっちなんて寂しいだろ」
「うん……でも私、部屋にいなきゃ。自分で我慢するって決めたから」
フラフラの体で、はマダムの腕から下りて部屋に戻ろうとする。やはりまだ体が相当辛いようだ。
「困ったね。あんたが船を下りないと、そこの船長も心配でうちの娘たちのもてなしを受けられないって言うんだが」
「え……っ!?」
びっくりしてはローのほうを向いた。
(バラすなよ……)
非常に情けない気持ちでローは帽子を下ろして顔を隠す。には顔なんて元から見られないのだが、気分の問題だ。
「キャプテン、私に気を使わなくていいよ。せっかく宴なんだから行ってきて」
「そういうわけにいかねぇだろ」
「でも――」
「ああもう、まどろっこしい! 二人とも来りゃあいいだろう。の相手はあたしたちがしてやるよ。娼館の客は男だけじゃない、慣れっこさ。媚薬を盛られた娘の世話だって初めてじゃない」
まさかの提案にローは絶句した。
「いや、それは――」
「何の不安が? 妊娠の心配も、病気の心配もない。こっちはプロだ」
「そりゃそうだろうが……」
「どうする? あんたが『うん』って言わないと、船長も船を下りられないみたいだが」
「おい、そういう言い方――」
案の定、はマダム・シュミットの腕に抱きついて「い、一緒に行く」と言い出してしまった。