第3章 セイロウ島
「こういうのはどうだい? メスのクマはあいにくいないが、代わりにあんたをセイロウ島・食い倒れツアーに招待しよう。あたしの名前でどこの店でも食べ放題だよ」
「本当に!? かき氷も!?」
「好きな味を何杯でも食べ放題だよ」
両手を上げて全身で喜びを表すベポをにっこりと見送り、マダム・シュミットはローを振り返った。
「あんたはどうする、船長? 女が嫌いだってなら――」
「ケンカを売ってんなら買うぞ、女楼主」
基本的な相性が良くないようでバチバチと火花を散らす二人を、ハートの男たちとサロンの女たちはハラハラと見つめた。
「キャ、キャプテン……」
かき氷が食べられなくなるかもと情けない声を上げるベポに、折れたのは海賊団の船長だった。
「を起こしたら追いかける。先に行ってろ」
◇◆◇
ノックしようとして上げた手を、長い沈黙と思考の末にローは下ろした。
中からは何も聞こえない。どうなっているのかもわからない。だから声をかけることもできずに、女子部屋の扉から少し離れた位置にイスを置いてローは座り込んだ。
はじめから、船を下りるつもりはなかった。
「こんなことだろうと思った」
誰も居ないはずの船内で声がして、ぎょっとして顔を上げるとマダム・シュミットが仁王立ちしていた。
「……何の用だ」
全部見抜かれているんだろうと思いながらも、ローは低い声で威圧する。
「こっちのセリフだよ。そんなにうちの娘たちが不満かい」
「そういう話じゃねぇよ。……クルーが我慢して苦しんでるのに、それを置いてほいほいそんな真似できるわけねぇだろう。いいから俺のことは放っておけ」
深々とため息をつくと、「バカ2人が」とマダム・シュミットは毒づき、女子部屋の扉を大きくノックすると「、入るよ!」と大声をかけて扉を開けてしまった。
「おい……っ」
「あんたは立ち入り禁止だよ!」
焦るローの目の前で、マダム・シュミットは扉を閉めてしまった。