第1章 奴隷の少女
「……本音を言やぁ、同情してる。海賊なんかに言われたくはねぇだろうが……まだガキみたいな若い娘が爆弾持たされて――あの時お前、笑っただろ。泣いて震えてたら俺たちだって異変に気づいた。仲間のために、死ぬのがわかってて何でもないように笑うなんてどれだけの覚悟だ……」
でもそんな覚悟を踏みにじられるように、彼女はすべて失ってしまったのだ。
「私……何も出来ないよ。この目だし――」
「これから一つずつ覚えていきゃいい」
おずおずと差し出された手は少しだけ見当違いの方向に延ばされた。その手をしっかり握って、ローは少女を立たせる。
「名前は?」
「……」
すでに大仰な涙をためて控えていたベポが、わーんと大きな声を上げてに抱きつく。
「蹴ってごめんよ」
「私こそ、爆弾で殺そうとしてごめんなさい」
1人と1匹は抱き合って、わんわん大声で泣き始めた。それを見ながらぐすっと鼻をすする部下二人に撤退作業を命じ、ローはラウザー海賊団の船長に向き直る。
殺してこそいなかったが、オペオペの実でその体は細かく分割され、耳障りな声がに聞こえないよう、顔はさらに縦に半分に切られていた。
癇癪のラウザーと呼ばれた、もとは北の海の貿易商のぼんぼんは、手も足も出ない状況で目を真っ赤に血走らせ、ローを睨みあげている。
「……医者なんでね。殺すのは趣味じゃねぇが――うちの新しいクルーが今までずいぶんと世話になった礼はしねぇとな」
言ってローは、ラウザーのバラバラにされた下半身を冬の海に蹴落とした。
「お前に人望がありゃあ、仲間に引き上げてもらえ。まだいるならな」
できることなら頭と胴体も蹴り落としてやりたいところだったが、医者の信条のためにそれはこらえた。
冬の海に長時間浸かれば細胞は壊死し、車椅子生活は免れない。癇癪を起こしたところで二度と人を殴ることもできないだろう。
「ラウザーは……? 殺してないの?」
目は見えなくても、はずいぶんと察しがいいようだった。思いつめた顔で、どこにいるのかと気配を探っている。
「……お前が殺してぇって言うなら止めねぇがな。その価値もねぇ男だ。少なくとも二度と悪さができねぇようにはした」