第1章 奴隷の少女
ナイフを握ってローに襲いかかって来た時、彼女の手は震えていた。それがわかったから驚くほど冷静に、の状況を見る余裕があったのだ。
殺されてしまった友達のために、自分がやるべきだと思いつめて震える彼女の手を握って、ローは「お前が背負い込むことはねぇ」と言い聞かせた。
「船を出すぞ。もたもたしてたら海軍が来る。埋葬は街の連中に任せよう」
「、行こう」
ベポに促されては頷いたものの、思いきれないようで「ちょっと待って」と言い出した。
「誰かナイフ持ってない?」
何をする気かとハートの海賊団の面々は顔を見合わせたものの、ローは手振りで他のメンバーに出港準備を命じ、ラウザーに殺された海賊が握っていたナイフを拾い上げると、柄の方を向けてに握らせる。
彼女はそれで自分の髪を切ると、事切れてしまった友達に握らせ、胸の上で手を組ませた。
「ごめんね、私なにも持ってなくて……こんなものしか。いつも一緒にいるよ。絶対忘れない。一人で行く私を許してね。今までありがとう……っ」
水平線に、海軍の船が見え始めた。
「、もう――」
「うん……」
返事をしながらも動けないを担ぎ上げて、ローはラウザーの海賊船を降り、ポーラータングへと走った。
「ベポ、船を出せ! 海軍が来るぞ」
「キャプテン進路は!?」
「グランドラインだ、このまま行く!」
「アイアイ!」
を担いでブリッジへつながるハシゴを下りながら、ローは「今日は泣いても許すが、明日からもまだメソメソしやがるようならその涙で甲板掃除させるからな」と脅した。
「鬼船長……」
「泣き虫の海賊なんて締まらねぇだろ」
泣き止みながら、は少し笑った。可愛らしい笑顔だった。
「笑ってろ。お前の仲間もその方が喜ぶ」
涙をぬぐって、は頷いた。