第1章 奴隷の少女
親友の手にすがって泣きながら、は奴隷友達の名を一人ひとり叫んだ。返事はなかった。ただの一つも。
(こんなつもりじゃなかったのに……)
自分さえうまくやれたら、他のみんなは生き延びられると信じたから覚悟を決めたのに。
――何もかも失ってしまった。
叫ぶような、悲痛な泣き声がずっと響いている。
目が見えないのはむしろ幸いだった。それほどに船の状況はひどく、死体で溢れかえっていた。
ラウザーは自分の鬱憤を晴らすために、奴隷も、部下も、あえて苦しめるように時間を掛けて切り刻んだのだ。
ローたちが船に来たときにはすでにほとんどが致命傷を負い、助けを求めて息のあるものは叫んでいた。
すぐに手当ができればせめて数人は救えたかもしれないが、船員を皆殺しにしてなおラウザーは我を見失うほどに怒り狂っており、さらなる鬱憤のぶつけ場所を求めて街に向かうところだった。
当然ローたちを見逃すはずもなく、まだ息のある部下を投げつけ、大斧を振り回してめちゃくちゃに船を破壊し、倒すのは3人がかりでやっとだった。
シャチとペンギンは重傷を負い、ローの手傷も浅くはない。もっとも一番深いのは、奴隷の少女に刺された傷だったが。
船の外が騒がしくなり始めた。街の人間が船での虐殺に気づき始めたようだ。
奴隷の少女はまだ、友達の死体にすがって泣いている。
「……お前、故郷は? 送ってやる」
「帰る場所なんてない」
なら、と言いかけ、街の人間に任せるべきかと一瞬考えた。普通に考えたら海賊が連れて行くよりそのほうがいい。
だが海賊の被害に縮こまり、奴隷たちの窮状にも見てみぬ振りをしていた連中だ。次なる海賊たちの機嫌を取るために、身寄りのない元奴隷の少女を差し出さないとも限らない。
「……まだお前に生きる気があるなら一緒に来い。もう虐げられる側にはいたくねぇだろう」
「どうして……?」
まだ涙に濡れた目で少女はローを向く。
「私、あなたを刺したのに……」
「人を刺したことぐらい、俺だってある」
なのに、あの人は俺を救ってくれた。ずっとその恩に報いたくて、その本懐を遂げることだけを考えて生きてきたが、それだけでいいのかという不安も尽きなくて。
散々に嬲られ絶望し、唯一の希望さえ殺されて、命以外のすべてをなくした少女がかつての自分に重なる――。