第3章 セイロウ島
(鎮静剤を追加で打つか……? いや、軽度だがは薬物アレルギー持ちだ。ここで増量して重篤化しちまったら、いざ手術でもするときに麻酔が使えなくなる。……そもそもクスリで興奮状態なところに鎮静剤ぶち込んで中和しようってのが無茶なんだよ。長年の奴隷生活で内蔵の機能低下も激しいってのに)
これ以上の内科的処置はできないとなると、外的対処を考えるしかない。かといって船の規律を保つことを考えたら、誰にもルール違反などさせられない。
(だからって島に戻ってその辺の男にを渡す訳にもいかねぇだろ……っ)
誰にともなくキレて、ガンガンとローは目の前の海図台を蹴った。びくびくしながらハートの海賊団のクルーたちは自分の作業に当たる。
(が自分で一夜限りの相手を選ぶなら、文句つける筋でもねぇし好きにさせるさ。まともに相手を選ぶ思考力があるならな。けどあれじゃ――)
抱きつかれてキスされそうになったことを思い出し、顔が熱くなるのを感じながらローは打開策を考えた。あれを拒める男がこの世にいるなら見てみたい。そんなやつ本当にいたらゲイだろうが。
(もともとろくでもねぇ海賊の相手ばかりで、避妊や病気の知識も乏しい。相手の良識を期待すんのも無理だろ。……結局我慢させるのが一番なのか)
が自分から言い出してくれて助かったと思う一方で、言わせてしまったような罪悪感がある。
『キャプテンに嫌わないでほしいって――』
ベポから受けた伝言と、キスを阻止したあとポロポロと泣き出してしまった姿が重なる。
(嫌うわけねぇだろ……)
大事だから信用ならない奴に渡したくないのだ。でもそれは船長の権限を超えた束縛なのかもしれない。
妙案は浮かばなかった。
――あっという間に、船はセイロウ島に到着した。
◇◆◇
「モリー!」
「ロックハウンド……! 愛しのあなた!!」
港では帰りを信じて待っていた男たちと、その胸に飛び込む女たちの熱い抱擁があちこちでかわされた。
「来年はベビーブームかねぇ。困ったもんだよ。それなりの覚悟を持って娼婦になったはずなのに、何かあるとすぐ女と男はくっついちまう」
甲板の上から再会の人だかりを見下ろし、まんざらでもなさそうにマダム・シュミットは煙管をくゆらせた。