第3章 セイロウ島
額を押さえてベポは思い出そうと努力する。無意識のうちにローは船長席から身を乗り出した。
「そんなに複雑な話か?」
ならベポの伝言は鵜呑みにせず、のところに直接聞きに行ったほうがよさそうだが。
「ううん、一言。ええと、熱は我慢するからキャプテンに嫌わないでほしいって感じのことを言ってたよ」
「……? 熱を出してんのか?」
鞭や鎖でずいぶん打たれて、確かに発熱はしててもおかしくなかった。もう一回診察するべきかと椅子を下りたローを、ベポは両手で引き止める。
「……島に着いても一人でいるって言ってたから」
伝言の意味を理解して、「そうか」とローは座り直す。
「……とにかくセイロウ島に向けて船を出す。ベポ、指示をしろ」
「アイアイ、キャプテン」
海軍はいまだ到着していないとはいえ、マダム・シュミットが派手に敵船に火をつけてしまったので駆けつけてくるのも時間の問題だった。鉢合わせてして拿捕でもされたら笑い話にならない。
ただでさえこの船は今、かなりの定員オーバーで走行しており、スピードも出せたものではなかった。船のいたるところに救出された娼婦たちが座り込み、島に帰れるのを心待ちにしている。
「……ああ、クソ!」
唐突に毒づいて頭を抱えた船長を、びくっとしてハートの海賊団のクルーたちは振り返った。
「な、なんですかキャプテン」
「びっくりした……」
「なんでもねぇ、作業に集中してろ」
いつになく機嫌の悪い船長の不興を買わないよう、クルーたちは言いたいことを飲み込んで言われたとおりにする。
ペンギンは察してそうだが、黙っているところを見るに口をはさむ気はないようだった。船長案件だとでも思っているんだろうか。
(どうすんだよ……)
悩みのタネはもちろんのことだった。鎮静剤は朝までぐっすり眠れる量を投与したのに目を覚ましたということは、それだけ脳の興奮状態がひどいんだろう。体の方も言わずもがなで、相当つらいはずだ。