第3章 セイロウ島
全身から鎖を出せる男は、両腕がないために哀れにもロープ一本で身動きを封じられ、海へと落ちた。シェレンベルクにつながるロープが甲板からするすると落ち、完全に全身が沈むギリギリで止まった。顔だけ出してシェレンベルクはわずかにもがいているが、鎖の重みで沈んでは船の動きでわずかに引き上げられてを繰り返している。
よっぽどロープを叩き切って海の底まで沈めてやろうかと思ったが、「キャプテン、大丈夫……?」とが手探りで立ち上がろうとするので慌ててローは彼女のフラフラの体を支えた。
「無茶しやがって……っ」
周りの娼婦たちと比べては明らかに一人重傷だった。何をしたのか、聞いたら怒りそうだからローは尋ねようとしてこらえた。
当のはなぜか上機嫌で、満身創痍なのに笑っている。
「……来てくれるって信じてた。だから何も怖くなかったよ」
(ウソつけ……っ)
あんなに鎖で打たれるのを怖がっていたくせに。でもニコニコとした顔を向けられて、ローは褒めてやるしかなかった。
「よく頑張った」
「ふふ……っ」
海賊船の制圧はあらかた済んだようだった。
捕らえられた女たちのため、青年団が積み込んだ毛布を配るペンギンから一枚能力でかっぱらって、ローはの半裸の体を毛布で包む。
「頭にくらって派手に血が出たみたいだな。でもこれは縫うほどじゃない、もう血も止まってる。他に痛むところは?」
「キャプテン、あんまり触らないで……」
真っ赤な顔で涙まじりに言われて、反射的にローは手を引いてしまった。
「俺は医者だ!! 別にセクハラしてる訳じゃねぇだろう!」
つられて赤くなるのを自覚しながら、ローは完璧な理論武装で主張した。
「変なクスリ飲まされたの……触られると辛い」
頬を上気させて熱っぽい息を吐き、触らないで、とはローから離れた。
「カリギュラ……反抗的な女奴隷をしつけるための媚薬だよ。飲ませれば女は皇帝に仕えるように従順になるってね。理性を壊して三日三晩喘がせるような下卑たクスリだ」
転がっていた空き瓶を拾い上げてラベルを読むと、マダム・シュミットは忌々しげに瓶を叩き割った。
「……シェレンベルクは?」
無言で海を指し、処遇は好きにしろ、とローは任せた。