第1章 奴隷の少女
座るようには言われ、誰かの手を握らされる。ほっそりとした少女の手。手探りではそこに誰かが横たわっているのを理解した。
「……良かった。無事だったんだね」
「エリザ? エリザなの? 大丈夫? 何があったの?」
同い年の一番仲が良い奴隷友達だと気づき、はエリザの手を握りしめる。彼女の手は冷たく、呼吸は乱れてひどく苦しそうだった。
「大丈夫だよね。ラウザーはもう倒されたんでしょう? 自由だよ。みんなであんなに憧れた自由! お母さんのところに帰れるよ」
「うん……でももう、無理なんだ」
「どうして!」
目が見えなくたって理由は察せられた。でも認めたくなくて、は「できるよ、帰ろう。きっと大丈夫だから」とエリザの手を握って励ます。どんどん冷たくなっていくばかりの手を。
「……ごめんね。爆弾を持っていけって言われたのは私だったのに、怖くて泣いてたらが代わってくれた。でもラウザーはそれに激怒して、みんなを斬り殺したの。いつもの癇癪だよ。でもいつもより全然手がつけられなくて……手下までみんな斬っちゃった。自分で自分の海賊を壊滅させるなんて本当にバカなやつだよね」
そのバカに殺される私達は何かな、とエリザは皮肉げに笑った。
「助かるよ、大丈夫。すぐお医者さんのところに連れて行くから!」
「診てもらったよ。あの船長さん、医者なんだって。でももう助からないって……ごめんね、。みんなが殺されたのは私のせいだよ。あんたはラウザーのお気に入りだった。いつもあんたが自分を犠牲にしてラウザーの癇癪をなだめてくれてたのに、私の身代わりなんかさせたから……っ」
かすれてどんどん小さくなる声。は泣くのをこらえて首を振ることしかできなかった。
「……最後に謝れて良かった。あんたは生きてね。私達のこと、忘れないで」
「置いて行かないで! 自由だって一人じゃ怖いだけだよ。一人にしないで……っ」
「ごめんね……」
それがエリザの最期の言葉だった。生きている人間の気配がふっと消えて、それきりもう、慣れ親しんだ声は聞こえない。
「返事してよエリザ……っ、アベル! ファビアン! イザドル! ロディ!」