第3章 セイロウ島
「今からそんなにピリピリしてどうするんだい」
青年団のまとめ役として報告を受けていたマダム・シュミットが、ブリッジに入ってくると同時にローの頭をはたいた。ドレスは脱いで動きやすい格好に着替えた彼女の風貌は、さながら海賊か、いいところ女戦士だ。
「ああ!?」
殺人鬼みたいな眼光でハートの海賊団の船長は睨んだが、海千山千の経験を持つ娼館のマダムは鼻を鳴らしただけだった。
「うぶな小娘じゃあるまいし。あたしが泣き出すとでも思ってんのかい」
忌々しく舌打ちをしてローは前に向き直る。そんな彼にマダム・シュミットは飄々と報告した。
「積み込んだ燃料の半分はこれで使い切った。帰りのことを考えるなら――」
「帰りなら、海上に出て帆走に切り替えりゃあそれで済む。ここで出し惜しみしてどうすんだ。時間が経つほど泣く女が増えんだぞ」
「……そんなにあの子が心配かい」
わかりきった質問だと返答を拒絶されるかと思ったが、予想外に若い船長は額を押さえて肯定した。
「目も見えないくせに……は変なところで思い切りが良すぎる。変に暴れて、余計にひどい目に遭ってなきゃいいが――」
組んだ指が白くなるほど力をこめて、ローは耐圧ガラスごしの暗い海を睨みつける。見ている方まで胸の痛くなるような心配ぶりだった。
(……俺らがさらわれても、キャプテンこんなに心配してくれっかな?)
ひそひそとシャチがペンギンにむなしい質問をする。
(期待するな。落ち込むだけだから)
(だよな……)
お前らはまず自力でなんとかしろと言われる光景が目に浮かぶ。
今日だってはたしての安全が確保されていたら迎えに来てくれたかどうか。なんとか死ぬ気で脱出したところで「捕まってたのか?」と飯でも食いながら聞き流されそうだ。そして出港時間に遅れたら置いていかれたに違いない。鬼キャプテンの名の通り。
「キャプテン、いた!! 船だ!!」
潜望鏡で海上の監視をしていたベポが叫んだ。
「浮上だ!! 船の真横につけろ! 接舷してを取り戻すぞ!!」
「アイアイ!!」