第3章 セイロウ島
息を呑んで、女たちは身を固くした。ただ一人だけが、怯え、震えながら、力の入らない体を必死に踏ん張って身を起こし、まだ諦めずに抵抗の意思を示した。
「……なんでそこまでする」
「ここで折れたら奴隷だもの。奴隷はキャプテンの船に乗せてもらえないの。それは死ぬより嫌……!!」
まるでその叫びに呼応するように――。
「て、敵襲ー! 海中から潜水艦が……っ」
「……来たか」
驚きはしなかった。彼らは必ず来ると、そんな気がしていたから。
◇◆◇
シェレンベルク率いるチェイン海賊団の海賊船は、3本の大きなマストからなる巨大なガレオン船だった。
人数はざっと200人弱。そこにさらった女たちをさらに100人近くも乗せていれば必然的に速度は落ちる。
海軍をまくため夜にも関わらず航行を続けているようだが、月明かりも乏しい中だ。まして海賊たちはさらってきた女たちに夢中のはずで、熱心に船を動かす者もいまい。
(追いつけるはずだ、必ず……っ)
マダム・シュミットは町長を介して女たちがさらわれたことを海軍にも伝えたそうだが、遠征になるとは思っていなかったようで正義の連中は出港の準備にまごついていた。
そもそも海軍なんて端から当てにはしていないが、その頼りなさは他によすがのない周辺の住民が哀れに思えるくらいだった。おかげで女たちを無事に取り戻せるかどうかは、完全にこの船にかかっている。
(……っ)
ポーラータング号は現在、海面すれすれを潜航していた。ソナーであるがいないためそれ以上は潜れない。
最低限の指示以外は黙りこくって、ローはブリッジの船長席に座っていた。ピリピリとした気迫は耐圧ガラスが割れるんじゃないかと思うほどで、シャチもペンギンも船長の顔を見ないように作業に没頭中の振りをする始末だ。
ベポは潜望鏡で海上の警戒に当たっているが、よほどが心配なのか珍しく作業に集中していて、この場の雰囲気を変えられる人間が誰もいない。
いっそどれだけサウナ地獄でも機関室のほうがマシだと思えるくらいだった。ちなみに現在、その過酷な作業は船に乗り込んだ街の青年団が担当していた。労働力として乗せた以上、船長は極めて人使いが荒い。