第3章 セイロウ島
ずっと昔、やっぱりそんな強い女がいた気がして、子猫ちゃんと呼ぶたび真っ赤になって怒ったその女ことを、懐かしく思い出す――。
『いつかあんな船長ぶっ飛ばして、お前を自由にしてやるよキティ。必ず助けてやる!』
ひとかどの男になりたかった。キティが自慢できるような、故郷のやつらを見返せるような、偉大な海賊に。
だが今ここにいるのは紛れもなく、女たちをさらい、乱暴して売り飛ばそうとする下種な海賊団の船長で――。その事実にシェレンベルクは愕然とした。
「奴隷でも娼婦でもない? じゃあ一体なんだってんだ」
に鞭を振り下ろして、海賊の一人が嘲って尋ねる。
それでも負けずには叫んだ。
「海賊よ……!」
「目も見えないくせに? こいつは笑わせる、世界一弱くてかわいい海賊でも目指してるのか」
「海賊を何だと思ってんだ? 小娘ごときに務まるわけがねぇだろう!」
「せいぜい奴隷だよ、お前らは。みんな奴隷になるんだ。ヒューマンショップで優しそうな客に媚びを売るんだな!」
媚薬を飲ませて集団で乱暴しようとする部下たちを、シェレンベルクは止められなかった。こんなクズが今更何を言えると言うんだろう。
「みんなが必ず来てくれるもの……! だから軽蔑されるような真似は絶対できないの! あなたたちと寝るなんて死んでも嫌……!!」
に感化されたのか、無抵抗だった他の娼婦たちまで暴れ始めた。
「マダムはあたしらを見捨てない! 女だてらに、女を武器に男の世界と渡り合うって決めて娼婦になったんだろう!? こんなことで心折れるんじゃないよ、あんたたち……!!」
たおやかな女たちとはいえ、100人弱が一斉に暴れ始めれば十分な脅威だった。
「せ、船長……っ」
部下にすがりつかれ、シェレンベルクは無言でを鎖鞭で打った。
シャチとペンギンが一撃で気絶した太い鎖による打擲は、の細い体を吹き飛ばし、甲板の手すりにぶつかって彼女の体はようやく止まった。
しんと船が静まり返った。女たちに向かってシェレンベルクは冷ややかに言う。
「次に騒げばまたこの小娘を打つ」