第3章 セイロウ島
(事故だったんだ……)
娼婦たちを乗せた船の中。船長室で壁に貼られた新聞記事を見て、シェレンベルクは心の中で言い訳する。
この記事が新聞に載った後、キティにはひどく責められた。彼女がシェレンベルクの行いを責めたのは初めてのことだった。
『殺そうと思ったわけじゃない! 島で海軍とやりあっているときに、迷い込んだ子供が射線に飛び出してきたんだ。事故だ!!』
小さな生き物が吹き飛び、柔らかい体が壊れる感覚はシェレンベルクにとっても嫌なものだった。忘れさせて欲しくてキティのところに行ったのに、シェレンベルクを責めてひとしきり泣いたあと、マダム・シュミットは海軍を呼んだ。
『あんたはもう終わりだよ、シェレンベルク。あんたは海賊王にはなれない。花屋にもなれない。……監獄で残りの一生を終えるんだ』
『俺を裏切るのか、キティ!?』
あんなに愛し合ったのにどうしてそんな真似ができるのかわからない。――わからないふりをし続けている。
甲板が騒がしいことに気づいて、シェレンベルクは様子を見に行った。サロン・キティからさらってきた100人弱の娼婦のうち、一人がなにやらひどく暴れているようだ。
「はーなーしーてー!! 触らないでバカ!!」
「痛ぇ、噛みつきやがったこいつ……!!」
暴れているのは娼婦たちの中でもひときわ小柄な娘だった。目が見えていないようで、必死の抵抗もあまりに非効率的だ。触られなければ、相手がどこにいるかもわからないのだから。
「やめて! その子はサロンの娼婦じゃないの……!」
娼婦たちが口々にかばい立てるが、すでにこちらの被害は甚大なようで、歯型から血を流したクルーが何人もいた。これは他の女になだめられたところで収まるまい。
「……バカな小娘だな。黙って甘えた振りの一つもすりゃあ、わざわざ痛い目見ることもねぇってのに」
ふと――昔も誰かにそんなことを言った気がした。
見えない目で、小さな娘はシェレンベルクを睨んだ。覚えのある、その強い眼差し――。
「奴隷の頃なら黙って耐えた! 抵抗したところで誰も助けになんか来てくれないから。でも今は違うもの。私はもう、奴隷じゃない……っ」
殴られ、どんなに鞭で打たれても、その小さな娘――は抵抗をやめなかった。