第3章 セイロウ島
キティの容態は思わしくなく、死ぬなら故郷に帰りたいと、うわ言のように繰り返すので、シェレンベルク率いる新生チェイン海賊団はなんとかエターナルポースを手に入れて、彼女の故郷・セイロウ島へ向かった。
だが十数年ぶりに帰った故郷は、海賊に襲われて無残な廃墟と化しており、もう人は誰も住んでいなかった。彼女が帰りたいとずっと思い描き続けた故郷は、面影すらどこにもなかったのだ。
燃え尽きた自分の家の前で、家族の安否も知れず、キティは地面に伏して号泣した。どんな暴力にも屈しなかった彼女が泣く姿を、シェレンベルクでさえ初めて見た。かけられる言葉は何もなく、彼女が「海賊なんか大嫌いだ。やっと故郷に帰ったのにもうどこにも行かない」と言い張るので、船の財宝をみんな置いて、シェレンベルクは去るしかなかった。
それから数年、シェレンベルクは海賊として海を行き続けた。海賊王が生まれ、処刑され、目まぐるしく時代は動いていった。
だがどんなに月日が流れても、彼女を忘れることはできなかった。
10年近くぶりにセイロウ島を訪れると、そこには小さな街ができていた。聞けば財宝を資金に開拓者を募り、丘の上のマダムが造り上げた街だという。
マダムが経営するサロンの名を聞いて、シェレンベルクは彼女が生きていてくれたことを知った。
『……遅い』
洒落た高級娼館なんて敷居が高く、ふるまいも服装もわからず、大きな花束とスーツを着て限界まで緊張いっぱいで訪ねたシェレンベルクを見てキティは呆れ顔をした。
痛々しく残った半身の火傷には、レースのような繊細で細かな刺青が入れられており、醜く傷跡が残るどころかあまりに魅惑的だった。あの頃もほかに類を見ないほど美しい女だと思ったけれど、地獄を見て、それでも生き抜いて同じ境遇の女たちを助け、故郷に再び街を造り上げたキティは本当に強くて凛として、触れるのをためらうほど美しいと思った。
『……あんた娼館に何しに来たんだい』
顔を覆って動けないシェレンベルクに、キティはそりゃあもう辛辣だった。
『無理無理無理。今触られたら死ぬ。心臓発作で逝く。大往生になっちまう』
『腹上死だろ。男の名誉じゃないか。あんたが死んだらその首、海軍に差し出して懸賞金で豪遊してやるよ』
『ひどい……っ』