第3章 セイロウ島
宴の夜、キティは人目を偲んでシェレンベルクの元へやってきた。その手に抱えていたのは悪魔の実。
『船長室から盗んできたのか!?』
売れば1億にもなるという悪魔の実。その中でも奴隷を使うのに適する「チェンチェンの実」を手に入れたことを船長は喜び、俺が食べると豪語していたのだ。
『偽物とすり替えておいた。あんたが食べな』
『俺は――』
『こんな時まで逃げること考えてんのかい!! 男が名を上げる機会に恵まれたなら、先のことなんて考えるんじゃないよ!!』
言ってキティはシェレンベルクの口に悪魔の実を押し込んだ。
『まず……っ』
『文句言うな!! 最後まで噛んで飲み込みな!! ……あたしを自由にしてくれるって言ったじゃないか。あのクソ船長は次の街であたしを売る気でいる。これが最後のチャンスなんだ』
船長がキティを売る気でいたなんてシェレンベルクは知らなかった。連れて逃げれば追手がかかる。逃げ切るためには力が必要だった。そのためにキティはこれだけの無茶をしたのだ。
『それともあたしを自由にしてくれるって言ったのも口先だけの約束かい……』
『違う!! それだけは絶対にウソになんかしねぇ。二人で一緒に逃げよう』
でもそんな微笑ましい約束がまかり通るほど、海賊の世界が甘いわけもなくて――。
『キティ……っ!!』
悪魔の実を盗んだのがバレ、キティは油をかけて火をつけられた。炎が夜空を照らし、悲鳴が耳を裂く、地獄のような光景――。
『可愛がってやったってのに恩を仇で返しやがって!! てめぇもだシェレンベルク!! 見習い小僧が奴隷に惚れて、俺のものを盗めると思ったか!?』
海賊たちに袋叩きにされて、シェレンベルクも虫の息だった。自分もこのまま殺されるんだと思った。
だがキティの悲鳴とそのあまりの光景に死に物狂いで暴れ、気づけば船長を殴り殺し、半身が丸焦げになったキティを抱いて大泣きしていた。
誰もシェレンベルクに逆らわなかった。向かってくるやつは船長同様、鎖で殴り殺すとシェレンベルクは脅し、それだけの力を実際シェレンベルクは手に入れていた。
こうしてシェレンベルクはチェイン海賊団を自分のものにした。でもそんなことより、頼むから誰かキティを助けて欲しかった。