第3章 セイロウ島
主犯であるマダム・シュミットはそのことには言及せず、「あいにく船の船長はあたしじゃないよ」とローに対応を丸投げした。
「え、なんで海賊が……っ」
「なんでもいいさ、速い船を持ってるなら!」
「頼む、俺達も乗せてくれ!!」
土下座せんばかりの懇願に、ローはため息をついて「命をかける覚悟のあるやつだけ乗れ」と乗船を許可した。
◇◆◇
シェレンベルクはもともと、南の海<サウスブルー>の名門の生まれだった。世界政府の高官を何人も輩出し、また美男美女の家系としても地元では有名だった。
しかし4男として生まれたシェレンベルクはどういう訳か家族の誰とも似ておらず、お世辞にも整った顔立ちとは言えない容姿で、兄や姉たちのように頭もよくなかった。
母の不貞が疑われ、そのせいで母親ですらシェレンベルクには辛く当たり、12の年にとうとうシェレンベルクは家を飛び出し海賊船に見習いとして乗り込んだ。いつか家族を見返してやることだけを心に誓って。
シェレンベルクが乗り込んだ船はチェイン海賊団といい、船長は奴隷商人上がりの男だった。部下が反論を述べれば折檻し、敵が気に入らなければ拷問し、自分は海賊王や白ひげにも一目置かれる存在なのだと大ぼらを吹く、そういう男。微塵も尊敬はできなかったが、小金を稼ぐことに長けていたので不興さえ買わなければ船の待遇自体は悪くなかった。
チェイン海賊団で最も船長の不興を買い続け、毎日のように折檻を受けていたのは彼の気に入りの奴隷・キャットだった。キャットというのは通称で、名前を明かさないからそう呼ばれていた。どんなに可愛がってやっても決して懐かない猫という侮蔑をこめて。
どこかの島でさらわれて、以来十数年、ずっと海賊の慰み者という哀れな女だった。だが境遇に似合わぬ気性の荒さで、海賊に対する揺るがない嫌悪と、それを隠しもしない態度はいっそ清々しいほどだった。
どんなに殴られ、鞭で打たれても、彼女は決して屈しない。
はじめはバカだと思っていたそうした姿勢を、痛々しく見守るようになるまでそう時間はかからなかった。