第3章 セイロウ島
奴隷の頃から、シュミット・キティが暴力を恐れて媚びることなんて一度もなくて、なのにムキになって暴力で屈服させようとする海賊たちをシェレンベルクは「馬鹿な連中だ」と見習いながらに思っていた。
確かにそう、思っていたのに――。
「このくたばり損ないが……っ!!」
「やめろ!!」
ピストルでトドメを差そうとした部下を、シェレンベルクは鎖鞭で薙ぎ払った。
もう人を傷つけることしかできない手――。
『バカなのか? なんで意地を張り続ける。愛想笑いのひとつもして積極的に応じてやったら今の待遇は変わる』
『バカはあんただよ、クソガキ。殴られた痛みは傷が治ればいずれ忘れる。でもそんなものに怯えてクソみたいな連中に媚びたって記憶は一生残って、自分をみじめにし続ける。あたしは奴隷じゃない。あんな連中に屈して、自分で自分を奴隷にしてたまるか!!』
シェレンベルクがまだ見習いとして海賊船にいたころ、彼女は奴隷として船にいた。美しい女だが気性が荒く、跳ねっ返りが過ぎると常に鎖でつながれていた。
見習いには触れられもしない、船長のお気に入りだった。
「――行くぞ」
「逃げるのかい卑怯者!! あたしを殺しに来たんだろう!?」
(ああ、そうだ――)
なのにその理由が思い出せない。なんだって惚れた女を殺そうなんて自分は考えたのか。
彼女が奴隷だったあの頃から、彼女以上に美しく気高い女に会ったことがないと思うほど惚れ抜いていたのに――。
現実を奇妙に遠く感じながら、シェレンベルクは娼婦たちを乗せた船へと乗り込んだ。
◇◆◇
「冗談じゃないよ、あたしが海賊なんか助けるはめになるとは……っ」
ローに肩を貸しながら、マダム・シュミットは騒がしく毒づいた。
「ずいぶんなセリフじゃねぇか、こっちはてめぇを助けるためにを助けるチャンスを一回棒に振ったんだ……っ」
シェレンベルクが去った後、マダム・シュミットは再び倒れた。鎖鞭で頭を殴られたせいで脳内で出血しており、取り除かねば死んでしまうところだった。
去りゆくシェレンベルクに一矢報いるか、マダムを助けるか、ローは二択を迫られ、マダムを助けるために能力を使うことを選択した。
ならきっと、そうしろと言っただろうから。