第3章 セイロウ島
「やめて……っ!! マダムごと切る気なの!? 人殺し!!」
悲鳴を上げ、ローにピストルを向けたのは屋根裏に隠れていたマルガリータだった。
ローは構わず刀を振る。発砲はそれより一瞬早く、弾丸がローの体を貫いた。
剣筋が逸れ、マダムごとシェレンベルクを両断するはずだった斬撃は、シェレンベルクの右腕を肩からもいだだけで終わった。シェレンベルクが抱えていたマダム・シュミットがどさりと地面に落ちる。
「ぐ……っ」
マルガリータの弾丸はローに膝をつかせた。
息の根を止める最大のチャンスだったが、再び味わわされた腕の喪失に大きなショックを受けてシェレンベルクは動けなかった。
「船長!! 海軍がもう来やがった! 沖の連中があっという間に……っ」
を含めた娼婦たちを船に運び込んでいた部下が慌てて報告しに来た。
到着が早いのは当然だった。この海域の警戒と、サロン・キティから一報があればすぐ出動できるよう、海軍はこの近くの島に支部を置いている。もともとここで暴れられる時間は限られていたのだ。
「船を出すぞ、この女も連れて行け」
最後の一人、マルガリータも鎖で捕らえてシェレンベルクは部下に引き渡した。
を失ってしまう――ローは拳を握りしめてなんとか身を起こそうとした。
「待て……っ」
「建物に火をかけろ。逃げる余力はもうねぇだろう」
ローと対峙することは避け、シェレンベルクは娼館に油をまいて火をつけさせた。
そしてマダム・シュミットを抱え直して自らも離脱しようとした瞬間――。シェレンベルクは意識を取り戻したマダム・シュミットによって殴り飛ばされた。
「あたしの城をこんなにしといて、どこに行こうってんだい!! もう一度海に出れるなんて思うんじゃないよ!! ここがあんたの墓場だ、シェレンベルク!!」
拳を握ってマダム・シュミットは一喝した。フラフラの今にも倒れそうな体とは裏腹に、目はトラファルガー・ローと同じように燃えていた。
どんなに打ったところでもう彼女は倒れないだろう。昔から、一度だって暴力なんかには屈しない女だった。
(ああ、そうだ。こいつは――)