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白夜に飛ぶ鳥【ONE PIECE】

第3章 セイロウ島


 娼婦たちを捕まえ、自分の部下らに連行させていたシェレンベルクはその気配に振り返った。
 呼吸はおかしく、全身血だらけで、立っているのがやっと。だがその若い海賊は、相手が格上だろうと自分が満身創痍だろうと、いささかも闘志を衰えさせることなく、見るものすべてを威圧する威厳のある低い声で言った。

「を返せ。俺のクルーだ」

 爛々と燃える目にシェレンベルクは怖気を覚えた。どんなに鎖鞭を振るっても、その海賊はもう倒れなかった。

 20年に及ぶ航海中、時々こういう目をした海賊に出会った。何が彼らを突き動かすのかシェレンベルクにはわからなかったが、そいつらは例外なくあっという間にこのグランドラインでのし上がり、名を上げていった。

(こんな若造が……っ)

 こいつが奴らと同類だと言うなら、今のうちに消しておくべきだ。だが鎖鞭を振るうほど鋭さを増していく眼光に、自分が追い詰められていくような気さえする。

「……っ!! さっさとくたばれ、ルーキーが……!!」

 首を絞め上げればどんな人間でも死ぬだろうと飛ばした鎖を、その海賊――トラファルガー・ローは刀で絡め取った。
 ゼィゼィと荒れる息の下、彼は絞り出すようにつぶやき、ゆっくりと刀を抜いた。

「……この海を行くなら、こんな危機はこれからもいくらでもある。てめぇなんぞにやれるようじゃ、『奴』には届かねぇ……っ」

 自分がこの男の視界にも入っていないのをシェレンベルクは感じ取った。見据えているのは、はるか先のさらに強大な敵。自分はそこへたどり着くまでの小石にしか過ぎないのだと――。

『あんたに海賊は向かないよ。花屋でも始めたらどうだい――』

 かつて言われた言葉が蘇る。それはシェレンベルクが今も片腕に抱える、娼館の女主人に言われた言葉だった。

「ROOM――!!」

 薄いベールのような領域が広がる。

(どこにそんな力が……っ)

 シェレンベルク自身、能力者であるため限界はよく知っていた。そんな死にかけの状態で能力を行使するなど普通は不可能だ。
 それをやってのけたから、あの海賊たちはのし上がっていったのだと今更ながらに理解する。そして同じ目で、若い海賊はシェレンベルクを狙って刀を構えた。
 シェレンベルクは完全に気圧されていた――。
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