第3章 セイロウ島
一触即発の空気に、ローはを抱えてこの場から脱出するタイミングを図った。シェレンベルクとマダム・シュミットの間にどんな因縁があるかは知らないが、巻き込まれてはたまったものではない。仲間の奪還という目的は達したのだ。
気がかりはがひどく怯えていることだった。20年近く前からグランドラインで暴れまわっていた海賊と知り合いとも思えないが、尋常な震え方ではない。
ささやくような小さな声では訴えた。
「ずっと鎖の音がしてる。あれで叩かれると、鞭よりずっと痛いの……」
「鎖――?」
街への砲撃は続いていた。あまりに騒然としたこの状況で鎖の音など聞こえるはずもないのに。
「もう一度あたしの手で引導を渡してやるよ、シェレンベルク。もう取り返しなんざつかないんだ……!!」
鉄と同等の拳を握りしめて、マダム・シュミットが跳んだ。
シェレンベルクは不気味なほど静かだった。絶望したようにうつむき、マダム・シュミットを見ようともしない。
勝負は一瞬でつくかと思われた――。
「……そうか」
何もかも諦めたような低い声と共に鎖がうねり、マダム・シュミットの体が吹き飛ぶ。
(鎖……!?)
鋼鉄の腕の中にぎっしりと詰まっていたのはシェレンベルクの体からつながる鎖だった。先端に重い分銅のついた無数の鎖が生き物のごとく蠢き、マダム・シュミットを滅多打ちにする。
「本当に俺は、何もかもを失ったんだな。ならお前も道連れだ、キティ。お前のすべてを俺も奪う」
「ふざけ――っ」
分銅が頭を直撃し、マダム・シュミットは倒れた。シェレンベルクは容赦なくその上に鉄の腕を振り下ろす。そしてマダム・シュミットの髪を掴んで引きずり起こすといささかの情も介在しない声で告げる。さながら死刑宣告のように。
「まだ殺さねぇ。俺の絶望をお前も味わえ。お前が造り上げたこの街も、命を賭けて守ってきた女どもも、みんなぶっ壊してやる」
女たちの悲鳴が上がり、鎖が次々と娼婦たちを捕らえる。シェレンベルクの『手』はにまで伸び、ローは刀を抜くとシェレンベルクの絡みつく鎖を受け止めた。
「……海賊か。俺が集めた連中じゃねぇな。運悪く居合わせた客か」
フッカー海賊団がセイロウ島のエターナルポースを持っていたのはそういうことか。