第3章 セイロウ島
「クソ……」
遠くで騒いでいるシャチとペンギンの声でなんとか意識を保ちながら、ローは爆風で肩に突き刺さったガラスの破片を引き抜いた。
「……無事か」
反射的に抱え込んだの様子さえよくわからない。爆音で耳鳴りがし、全身にもろに衝撃を受けて視界はかすんでいた。
反応はが一瞬早かった。着弾の直前、子鹿のように彼女は危険を察知し、つられるようにとっさに抱えたおかげでなんとか離さずにすんだ。
だがローの腕の中で、はまだ体をこわばらせていた。
「キャプテン今の……大砲じゃない」
「なに?」
「砲撃の音はしなかった」
土煙が収まり始め、ローもそれを目にする。娼館の一階を吹き飛ばしたのは砲弾ではなく、人も握りつぶせるような巨大な鉄の腕だった。
砲弾の代わりに飛んできた鉄の腕は鎖によって巻き戻され、両手に鉄の腕を装着した大男が姿を現した。
「シェレンベルク……!!」
娼婦たちによって落とし穴から引き上げられたマダム・シュミットが、忌々しく低い声でその名を呼んだ。
「久しぶりだなぁ、キティ」
「あんたを招いた覚えはないよ! あたしの城をめちゃくちゃにしやがって……! 海軍にとっ捕まったはずだろう、今更ここに何の用だい!?」
「何の用……? 何の用だとお前が聞くのか? 俺を海軍に売ったお前が?」
醜い顔をさらに歪めて、〝鎖鞭〟のシェレンベルクは泣き笑いのような表情を浮かべた。
捕らえた敵船の乗員をひどい拷問にかけることで有名な海賊だった。その懸賞金は5000万ベリーを超えている。
(海軍に捕まったあと両腕を切り落として脱獄したと聞いていたが、あの腕――)
ひどく不格好で不釣り合いな義手だった。どうやって動かしているのかもわからない。その両手をシェレンベルクは泣きそうな顔でマダム・シュミットに突き出した。
「この腕を見ろ。もうチェロも弾けやしねぇ。お前のせいで失ったこの腕を見ても、まだ俺に何の用だと問うのか」
「海賊が失ったものを見せびらかして同情でも買おうってのかい! あんたにもっとひどい目に遭わされた連中が海にはごまんといるだろう。海賊がいずれ辿る道さ、自業自得だよ」