第3章 セイロウ島
涙ながらに叫ぶシャチに思わずローは漏らした。
「……お前本当女運ねぇな」
「言わないでくださいよ! 俺だってすっげー傷ついてるんですから!!」
わめく元気があれば大丈夫そうだ。問題はこの場にいない、もう一人。
「一人足りねぇぞ」
「さあ、なんのことだか。仲間が一人迷子なのかい? それはあたしらの預かり知らぬことだねぇ」
「とぼけるな! あの服屋の店主もグルだろう。をどこへやった!?」
えー!!とシャチとペンギンが飛び上がった。
「まで行方不明なんスか!?」
「何やってんですかキャプテン!!」
「うるせぇ、お前らが言うな!!」
探しに行かないと、と暴れる海賊二人に見張り役の娼婦たちがピストルを突きつける。
「じっとしてないと撃っちまうよ!!」
「心配する振りをするんじゃないよ! 海賊が奴隷を心配するのは高く売り飛ばすためだろう!!」
何気なく発せられた言葉をローは聞き漏らさなかった。
(が元奴隷だと知ってる? 背中の焼印を見たのか……っ)
ということは間違いなくはここに来ている。しかも彼女らの口ぶりから察するに、売り飛ばすためにをさらったわけではなさそうだ。
(ならまだここにいる可能性が高い。暴れるのが一番か……!)
鬼哭を抜こうとしたのと、マダム・シュミットが「落としな!!」と叫ぶのは同時だった。
ローがいるホール入り口の床が割れ、奈落がぱっくりと口を開ける。落とし穴の底で黒光りしている液体からは磯の匂いがした。
「海水か! 能力者対策も万全とは恐れ入るよ……っ、ROOM!!」
とっさに能力領域を最大まで広げ、ローは海水に落ちる寸前で自身とホールのシャンデリアの位置を入れ替えた。
「!! 居るなら返事しろ!!」
逆さになって落ちてくるローに、吹き抜けから狙っていた娼婦たちが一斉に発砲する。自分に向かってくるその弾丸をローは彼女たちの足元の埃と入れ替えた。
「きゃあ!!」
「あんたら下がりな! ピストルで仕留められる相手じゃないよ!!」
マダム・シュミットが一喝して、ショールを脱ぎ捨てる。
シャチとペンギンに銃を突きつけていた娼婦たちが「仲間がどうなってもいいわけ!?」とすごんだ。