第3章 セイロウ島
「……可哀想に、知らなかったのね」
優しく横からを抱きしめて、マルガリータはなぐさめた。
「ここにいれば大丈夫よ。どんな海賊だって手出しはできない。マダム・シュミットは世界政府とも深いつながりがあるの。何があっても私達を守ってくれるわ」
(キャプテンだって約束してくれた……誰にも売ったりしない、さらわれたら絶対助けに行くって)
の知る彼は優しくて、目のことだって熱心に診てくれたし、仲間のために本気で怒ったり心配する、海賊でも信頼できる人だ。
でもマルガリータの言葉も否定できなかった。手配書を読み上げる彼女の様子に不自然なところはなく、ウソをついているようにも聞こえない。
(エリザ……私、どうしたらいい?)
何が真実なのか、暗闇しか映さない目には何も見えなかった。
◇◆◇
サロン・キティは丘の上で一番大きな洋館だった。セイロウ島で最も高い場所にあり、まるで島全体を見下ろしているような印象を受ける。
(なるほどな。ここの主人、マダム・シュミットが島全体を仕切ってるってわけか……)
門番の誰何の声に睥睨を返し、ローは娼館の入り口をくぐった。
「……大した歓迎のされようだな」
娼館は四階建て。入り口をくぐってすぐは吹き抜けのロビー兼ホールになっており、下着同然の格好の女たちが100人ほど、あらゆる角度からローをピストルで狙っていた。
「臆さず一人で来るとは……なかなか肝のすわった男じゃないか」
「……てめぇがマダム・シュミットか」
顔を含めた左半身に仰々しい刺青をした女が煙管をくゆらせ、人でも喰ったかのような赤い唇でにぃと笑った。美しい女だが、毒のある美だ。若く見えるがこの状況で笑う胆力の持ち主が見た目通りの年齢の訳がなかった。
大胆に肌を出したナイトドレスから見えるのは、顔から腕、そして胴にまで隙間なく入れられた刺青。
(痣……いや、火傷か?)
刺青から透けて見える地肌の色がわずかに違う。つい医者の視点から分析してしまうのは悪い癖だった。
「……うちのクルーは?」
マダム・シュミットが指を鳴らすと、一階の扉が開けられ、ロープで縛られ、女たちにピストルを突きつけられたシャチとペンギンの姿が現れた。
「キャプテーン!!」