第3章 セイロウ島
「キャプテン……」
おろおろするベポに「サロン・キティってのは確か、二人が行った店の名前だな?」とローは確認する。
「う、うん。確かにそう言ってたよ……」
ため息をついて、ローは係船柱に座り込んだ。状況はよくない。
(狙いは俺の懸賞金か……仲間をさらって海賊を脅そうなんて、ずいぶん危ねぇ真似しやがる。二人は店にいるとして……問題はどう考えてもだな。サロン・キティに居りゃいいが、いなかったら――)
考えをまとめ、ローは立ち上がった。
「ベポは船にいろ。あいつら取り返しても船を押さえられたら身動きがとれなくなる」
「キャプテン一人で行く気? きっと罠だよ!」
「そうは言っても見捨てるわけにいかねぇだろ」
鬼哭を担いでローはもう迷わなかった。グランドラインを航海するなら、この先もこんな危機はきっといくらでもある。
「……店にいるかな?」
「……いなかったら島中ぶった切ってでも探す。ベポは船の心配だけしてろ」
言ってローは振り返ることなく、丘の上のサロン・キティを目指して歩き出した。
◇◆◇
「ここから出して! 全部誤解なの! 私を殴って目を見えなくさせたのはキャプテンたちじゃないんだってば……!」
鍵のかけられた扉を叩いては叫んだが、主張は聞き入れられそうになかった。
「そんな叫んじゃダメよ、かわい子ちゃん。もうじき日暮れ。お客も来るわ。みんなの仕事の邪魔しちゃダメ」
後ろからふんわりとマルガリータに抱きとめられ、はよしよしされながらベッドへ引き戻される。
他の娼婦たちは仕事の時間だからと出ていった。今部屋にいるのは、とマルガリータだけだ。
「優しくされて、騙されちゃったのね? それが海賊の常套手段よ。信頼させておけば鎖でつないでおかなくても逃げない。それどころか自ら戻ってきさえする。オークションにかけるときまで、そうやって海賊は奴隷を騙すの」
「違う、みんなは……っ」
「違わないわ。いい海賊なんていないの。みんな等しくおたずね者よ。……あなたのキャプテンの悪行を知っている? 北の海<ノースブルー>で50人の海兵をバラバラに切り刻んだそうよ」
初めて聞く話には動揺し、何も言い返せなくなってしまった。