第11章 死者の夢
が街まで迷わずたどり着けたのは人の気配を感じたからだ。いま、他の気配はない。今にも消えてしまいそうなローと仲間たちの命だけをかすかに感じるだけ。
それは彼らの現実の体に衰弱死が迫っていることを示していた。
「一人は悲しい……」
しょんぼりとミケはしっぽを下げて、甘えるようにに身をすりよせる。持ちかけられた取引の内容を、は正確に理解していた。
「……一緒にいるよ。夢の神様の眠りは、もう覚めない。ずっとずっと一緒にいる」
ケトスに次の予言をさせない方法をずっと考えていた。次の儀式の犠牲はより過酷になる。とてもヘイアン国の人々に払いきれるものではない。
ヘイアン国の王様として、は儀式をもう起こさせないようにしたかったのだ。
「ミケが力を貸してくれたら、ケトスの夢はもう覚めない。永遠に続く閉じた夢の中で、ずっと二人のそばにいる」
「駄目だ……!!」
体を引きずってへと歩き、ローは「やめてくれ」と懇願した。
「を覚めない夢に閉じ込めないでくれ。大事なんだ。失うなんて耐えられないんだ……っ」
キャプテン、とは泣きながら彼の体に触れた。
「右腕がないよ。全身ひどい火傷……ダメだよ。夢の傷は、現実にも影響するんだよ」
体の傷なんて構わず、ローはを抱きしめた。
「こんな傷より、を失うほうがずっと辛い」
はハッとし、ローを突き飛ばした。彼がいた場所に炎の槍が突き刺さる。それは代わりに、の胸を貫いていた。
「ニャー!!」
チェシャ猫の叫び声が、夢の檻を壊す。パズルが砕けるように、景色が割れた。炎の槍を放ったピサロも、彼に引きずられる青虫も、何もかもが砕け散る。
外側にあったのは漆黒の闇だった。それを泳いでイルカに似た神がやってくる。
「駄目だ……っ」
連れて行かせまいとローは残った片腕でを抱きしめる。ケトスは容赦なく、ローを突き飛ばした。
その目に宿るのは怒りと憎悪。同じ目をミケまで向けてくる。を守れなかったローを彼らは責めていた。
「大丈夫だよ……」
薄ぼんやりと目を開けて、は力の入らない手でケトスとミケを撫でた。