第11章 死者の夢
ニャア、と鳴いてミケが体を擦り寄せる。アリスのお父さんが拾ってきた、夢を見せてくれる不思議な猫。
外の島でひどい目に合わされたのか、最初はずっと人間を警戒して、そばに寄ろうともしなかった。
アリスと一緒に根気強く世話をして甘えることを覚えると、ミケはいろんな夢を見せてくれた。ミケの能力は、アリスとコリンだけの秘密だった。
冒険に行く夢。アリスがお姫様になって、コリンが格好いい騎士になる夢。夢の中では何でもできて、どんな怪物だって倒すことができた。
(僕はアリスを守る騎士になれたはずなのに……)
彼女はおらず、こうして何一つ太刀打ちできずに死んでいく。
悲しいより悔しかった。いつかアリスは帰ってくるのに、彼女の故郷はなくなってしまった。
「ニャア……」
本当にそれでいいのか、とミケが問うように見てくる。嫌だ、と思った。アリスが帰る場所をなくしたくない。
(君にもう一度、会いたいんだ……)
やり直して、とミケに頼もうとした。せめて夢の中では故郷を守りたい。彼女が笑顔で帰って来られるように。
「コリン――!」
泣き叫ぶような声がして、視界に美しいストロベリーブロンドが映った。
(アリス……?)
帰ってきてくれたのかと、最後の力でコリンは頭を上げた。
それを抱きしめて、は「しっかりして!」と声をかける。コリンにはもう、彼女がアリスではないと理解することはできなかった。
「うれしい……やっと帰ってきてくれたんだね。500年待ったよ」
彼女が旅立った日と変わらない街を守るため、500年、滅び続ける街を繰り返した。
やっと願いが叶った。アリスが帰ってきてくれたなら、夢は終わりだ。
「君が好きだよ……」
生まれたときから一緒にいた、大事な大事な幼馴染。いつだって君に恋をしていないときはなかった。
コリンの体が崩れていく。は必死に呼びかけたが、少年は笑ったまま、骨になって崩れた。
「人間はいつも勝手で、ウソつきだ。ずっとそばにいると言ったのに」
身をすりよせて悲しい鳴き声を上げ続けるミケを抱きしめて、は懇願した。
「ミケ、お願い夢を終わらせて。このままじゃキャプテンが死んじゃう。みんなみんな、死んでしまうの」