第11章 死者の夢
「ひでぇ悪夢だな……」
笑いながらミギーは泣いた。幸福から突き落とすなんて、ただ悪夢を見せるよりよほどひどい。
人の力ではどうにもならないことをミギーは知っていた。これは起こってしまったこの島の歴史だ。誰にも変えられない。
巨大な炎の直撃を受け、ボロ雑巾のように男が転がってきた。全身焼けただれ、特に右手は炭化してしまっている。
それでもトラファルガー・ローは闘志を失わず、左手で刀を握って立ち上がった。彼はとどめを刺そうとやってくるピサロ将軍をにらみつける。
「バカだなてめぇ……」
どこまでも抗おうとする男に、ミギーは嗤った。愚かだと心底思うのに、救われるような心地がするのはなぜだろう。
(そんなに、あの子を守りたいのか……)
ミギーがふざけてキスしようとしたら、真っ赤になって怒るくらい大事な相手。
どんだけ好きなんだよと腹抱えて笑ってしまったが、片腕を失っても折れない姿を見ているとうらやましくさえ思った。
自分の命も賭けられるくらい大事な人間なんて、人生でそう得られるものではない。
切りかかってきた兵士を、ミギーは殴り倒して沈めた。勝敗は初めから決まっている。歴史を変えることは誰にもできない。
満身創痍のトラファルガー・ローとは真逆に、ピサロは傷ひとつ負ってはいなかった。
(相手はロギアだ。お前じゃそもそも勝てない……)
物理的に対象者を両断するトラファルガー・ローの能力は、自然種とは相性が悪かった。一矢さえ報いることができていない。
ミギーは前に倒れ込む。そして青虫の姿になると、体を丸めてピサロ将軍に突撃した。
大車輪のように転がった体を自分では止められず、危機を察したピサロが避けたので、ミギーは燃え盛る街の建物に激突した。
街の大図書館が一撃で粉砕する。
「お前……っ」
驚いてトラファルガー・ローがミギーを見る。
「コイツは俺がやる」
瓦礫を払ってミギーは言った。バカなことをしていると思いながら、妙に晴れやかな気分だった。
「お前、覇気使えねぇんだろ。いくらやっても無駄だ。ロギアとやるにはそれなりの実力ってもんが要んだよ」
どんなに大事なものがあったって、弱ければ守れないのだ。姉を失ってそれを刻みこまれ、ミギーは冷徹なまでに合理的に強さを求めた。