第11章 死者の夢
は力強くうなずいた。そこには怯えや不安は微塵もなかった。
そして彼女は駆け出していく。火の手が上がる街へ、まっすぐに。
コラソンはいつまでもそれを見送っていた。二人の無事と幸福を祈って。
◇◆◇
「姉ちゃん……!!」
悲鳴を上げて、青虫ことミギーは自分をかばって屋根の下敷きになった姉を助け起こした。
店が燃えていることにも気づかず酒場で飲んだくれていたミギーを、彼女は危険も顧みず助けに来てくれたのだ。
下半身が瓦礫に埋まり、どんなに引っ張っても彼女を助け出すことはできなかった。
「行きなさい、ミギー……」
火が迫っていた。姉ちゃんを置いていけないと首を振るミギーを、彼女は最後の力で押しのける。
「これは夢なの。最後にあなたに会いたいと思ったから叶っただけ。それにしがみついちゃいけないわ……」
「嫌だよ。だって会いたかったんだ。どんなことをしてでも姉ちゃんにもう一度会いたかった。だからこの島に来たのに……っ」
幸福はまるで悪夢の前兆のようで、またひどい失い方をするんじゃないかと怖くて、受け入れられなかった。
彼女は微笑み、幼い子供にするように、ミギーをいい子いい子と撫でた。
「大きくなったあなた見られて良かった。いい夢だったわ……」
そして、どこにそんな力が残っていたのか疑問に思うほどの力でミギーは突き飛ばされ、次の瞬間、建物は崩れた。
理解できず、呆然とミギーは崩れた建物を見る。
だんだんと状況が飲み込めて、叫ぼうとし、他の誰かが代わりに叫んだ。
剣を持った兵士が、女も子供も関係なく、住民に襲いかかっていた。
子供の前で母親が殺され、子供だけはと懇願する父親の前で子供が殺される。火が移り、何もかもが燃えていく。
「はは……」
ひどい悪夢にいっそミギーは笑ってしまった。
死者に会える島の噂を聞いたとき、ミギーはこの島の歴史を調べた。世界政府によって征服され、粛清された島としてカナンの記録はあった。
よりにもよって「悪夢」とさえ呼ばれたピサロ将軍の訪れた島。何も残ってはいないだろうと、はじめからわかっていた。
なのに島では何事もなかったように、500年前の人々が暮らしていた。平和で幸福な、訪れた者を誘う夢。