第11章 死者の夢
故郷で見た光景に、腹の底から怒りと憎悪がこみ上げた。我慢がならずにローは子供を殺そうとしていた政府の軍人を斬り捨てる。
「ヤブ医者……」
チェシャ猫を抱えたコリンが、青い顔でローを見上げた。
「アリスは?」
「もう島にいないよ。昨日の夜、別れを言う暇もなく、行っちゃったんだ……」
この惨劇を見なくて済んだならむしろ幸いだったかもしれない。コリンを逃して、ローは侵略軍の本隊と対峙した。
「……てめぇを知ってる」
教科書で見た肖像画とそっくりの男が鎧を着ているのを見て、ローは口端を歪めた。
500年前、世界政府への参入を求めてマリージョアは各国へ使者を出した。
ピサロはその中で語り継がれる虐殺の将軍だ。世界政府への加盟を拒んだ国で虐殺と略奪を繰り返し、彼が通った国は草木の一本すら残らず焼き尽くされたという。
「選べ。恭順か、死か」
悪夢と呼ばれた男は意外に小柄で細かった。立派なあごひげに神経質そうな目。かざした手に炎が灯る。ピサロはメラメラの実の能力者だった。
焼いた街の数は100を超え、7つの国を滅ぼして、後年聖地で処刑された。
「この島から出て行け」
ピサロは返事もしなかった。原住民と話すことは何もないとばかりに、街に火を放つ。
「男は殺せ。女はさらえ。好きなだけ奪い、壊し、犯すがいい。この島は世界政府に楯突くことを選んだ。存在する価値もない」
「やめろ……!!」
剣を持って散らばろうとする下衆たちを、ローは能力で両断した。やっとピサロの表情がわずかに変わる。
将軍にローは鬼哭の刃を向けた。
「どっちが存在する価値もないか教えてやる」
と約束し、夢の終わりを受け入れた。でもこんな終わりなど納得できるはずがなかった。
たとえもうどうしようもない、過去にこの島に起こってしまったことなのだとしても。