第11章 死者の夢
コラソンも緊張している。見えなくても空気で、にはそれがわかった。
「なに? なにかあったの?」
が尋ねると二人はハッとする。を抱き上げてローは「なにもないよ」と言った。それがを安心させるためのウソなのは明らかだった。
不安になっては五感を澄ませる。目が見えなくても他の感覚は他の人より鋭い。風上から流れてくる空気がわずかにすす臭いのが気になった。
「火事……?」
の指摘に二人は息を呑んだ。ごまかせないと判断したのか、ローはを下ろして「街から煙が上がってる」と白状した。
「大きい火事? うちも燃えちゃってるかな……」
「普通の火事じゃないんだ。あれは多分、街が焼き討ちにあってる」
コラソンの説明にはローにぎゅっとしがみついた。安心させるように背中をなでて、ローは「様子を見てくる」と言った。
「はコラさんとここにいてくれ」
離れるのは心細かった。でもこの中で一番動けるのはローだ。もコラソンも足手まといにしかならないだろう。
「キャプテン、気をつけてね……」
一緒に行けないのがもどかしかった。一人だと彼は無茶をしすぎるから、本当は付いていきたいのに。あまりに心配で心臓が苦しかった。
「必ずのところに戻ってくるよ。……愛してる」
を抱きしめて素早くささやくと、ローは鬼哭を手に街へと駆けていった。
「ちゃんおいで。すぐ動けるように準備しておこう」
コラソンが気を使って声をかけてくる。
うんと頷いたものの、心臓が苦しいのは全然消えなかった。
◆◇◆
(これが破滅なのか……?)
燃え盛る家々を横目に、ローは騒ぎの元凶を確かめようと走った。
人々はパニックになって着の身着のまま、港のほうから逃げ惑ってくる。何人かを捕まえて何があったか聞いても、返ってくるのは「突然」とか「船が来た」とか、断片的な単語ばかりだった。
やがて燃える建物の横に斬り殺された人間の遺体が転がり始めた。悲鳴を上げる市民を襲っているのは、揃いの軍服を着た兵隊たち。
(ああ、またか……っ)