第3章 セイロウ島
「試着が終わって、あんたたちを呼んでくるといったん出ていったんだよ。ずいぶん戻りが遅いと思ったが、商品は置きっぱだし盗難も疑ってなかったからついそのままにしちまった。そうしたら、その着ぐるみのクマさんが『まだ試着が終わらないのか』と来たんだ」
「俺ちゃんと店の前にいたよー! が来たら絶対気づいたって! 店から出てきてないんだ!!」
「そうは言っても、こっちだって出ていくところを見てるんだからね……」
食い違う証言。だがこの状況で一番信用性が高いのはベポの証言だとローは判断した。
半泣きになりながら店の前にずっといたと自分のクルーが言うなら、それが事実だ。
(つまりは本当に店から出てきてねぇか、出ても見えねぇ状況にあったか――)
能力者が絡んでいたら、可能性は無限大だ。それは考えてもキリがないとシャットアウトし、ローは試着室を調べにかかった。
(店主がウソをついてるなら、はここから消えたはずだーー)
壁や床を入念に探ると、鏡の後ろからわずかに風が来ていた。
「抜け道か――!」
だが全力で体当たりをしても、鏡はびくともしなかった。
「やめておくれよ! その向こうは隣家だ! もともと居抜きの店舗でもっと広かったのを半分だけ借りたんだ! 扉があったのをふさいで鏡をかけた。それを壊したらあんたら弁償してくれんのかい!?」
力ずくでは破れそうにないと判断し、ローは諦めた。
「ROOM――!」
能力領域を広げ、鏡の向こうの石と自分自身を入れ替える。そこに広がっていたのは隣家などではなく、防空壕と思しき地下道だった。
「何が居抜きの店舗だ……っ」
鉄のカンヌキを外して、内側からローは扉を蹴り開ける。
「うちのクルーをどこにやった!?」
もはや言い逃れできない状況になり、女店主は一目散に逃げ出した。
「捕まえろ、ベポ!!」
「誰か来とくれー!! 海賊が暴れだした!」
女店主の叫びにぎょっとした人々が、ピストルやライフルを手に家や店から飛び出してきた。
「マダム・シュミットに伝えろ! 急げ!!」
「キャ、キャプテーン!!」
市民から撃たれたベポが反撃もできずに悲鳴を上げる。