第3章 セイロウ島
『お兄さま、おまつり行こうよ~』
(ラミ……)
アイスが好きで、いつも後ろをくっついて歩くかわいい妹だった。覚えているのは、それだけ。
あまりにもひどい最期に、生まれ故郷の白い町<フレバンス>のこと自体、なるべく思い出さないように蓋をして生きてきたから。
実際妹がいたことさえ、ベポに言われるまで忘れていたーー。
「……妹はいたよ。死んじまったけどな」
それ以上語る気はなく、ローは服屋の店先のベンチから立ち上がった。
「ちょっと本を見てくる。金は持ってるな? が出てきたら会計して、呼びに来い」
向かいの本屋を指すと、「アイアイ」とベポは応じた。
(はラミに似てるか……?)
比較しようにもローの中の妹は小さな子どものままだ。そしてそのまま、永遠に成長することはない。
顔は似てなかった気がする、と結論するのが精一杯だった。
だが確かに、に甘いのはラミを可愛がっていたのと同じ気持ちから来ているかもしれない。
(重ねてたつもりはねぇが……)
どちらも可愛くて仕方ないのはどうしようもない事実だ。
(……悩ましい話だな)
どう接するのが正解なのか、答えがわからず、気づけばローは考え事に沈んで、店の医学書を全部会計していた。
(しくったな……こんなに買うつもりじゃなかったのに)
両手に大量の本が入った紙袋を抱えて、ローは道をはさんだ反対側の服屋に戻った。
そこではベポが店の店主である中年の女性と、何やら揉めていた。
「何事だ、ベポ」
「キャプテン! 大変だよ、が消えちゃった!!」
「はぁ!?」
思わずローは両手の紙袋を取り落とした。
「どういうことだ」
鬼哭だけ持ち直して半泣きのベポに詰め寄るが、「わからない」とベポは首を振るばかりだった。
「試着してたはずだろう。そこから消えたってのか?」
春秋用と最低限の夏物・冬物を選んで、サイズと、一人で着れるかどうかを確認しろと試着に行かせたのだ。その際女店主にの世話を頼み、快く引き受けてもらった。
だが女店主も同じく困惑顔で首を振るばかりだった。