第11章 死者の夢
ただならぬ気配にクルーたちは遠慮し、ローはアリスとコリンに案内されて、彼が暮らすという森の家へと一人で向かった。
木のように大きなキノコが生えた森を進み、街から少し離れたところにその家はあった。
苔むした屋根が乗る、粗末なログハウスだ。一人で暮らすにも小さく、苦しい暮らしぶりなのがうかがえる。
慣れた様子で、アリスは扉をノックした。
「コラさん、こんにちは! クレアおばさんから届け物だよ」
返事があったが、扉越しのくぐもった声ではわからなかった。コラさんの声を思い出そうとして、わからない自分に驚く。
人を忘れるときは声からたというが、こういうことなのかと愕然とした。
扉が開き、大きな手がアリスの頭を撫でた。ローの位置からでは顔は見えない。
「二人ともありがとうな。アメあるぞ。食ってくか?」
「そんな子供じゃないわよぅ」
「そうか。いらない?」
「いるけど」
口をとがらせたアリスの言葉に彼は笑う。その、懐かしい声――。
「コラさん……」
かすれる声で呼ぶのが精一杯だった。彼は客がもう一人いるのに気づき、大きく扉を開ける。
「……ローか?」
頷くのが精一杯だった。
コラソンの左腕は二の腕から欠けて、右足は奇妙にねじくれていた。顔の半分をひどい火傷が侵し、部分部分でしか、かつての面影はない。
それでも間違いなく彼だった。命をかけて自分を救ってくれた恩人。片時も忘れたことのない大事な人。
「でかくなったなぁ、お前……!!」
破顔して彼は、片方しかない手でローの肩を乱暴に叩く。その目に涙が浮かんでいて、彼が自分を忘れていたわけではないと理解できて、それで十分だった。
「良かった……っ、生きててくれて」
声が出なくて、これが嗚咽なんだと思い出す。コラソンは抱きしめるようにローの背中に腕を回して、まだどこか乱暴に叩いた。
「話を聞かせてくれ。俺も話すことがたくさんある」
びっくりしている子供たちが見ているのでローは涙をぬぐって、頷いた。
◇◆◇
アメをやって子供たちは早々に帰し、ローは彼の家に招かれた。
「悪いな、あばら家で」
薄暗くカビ臭い家にコラソンはすまなそうにしたが、ローは首を振った。彼がいるなら、そんなことどうでもよかった。