第11章 死者の夢
「パンは嫌いだ」
「いい大人のくせに好き嫌いするなんて……母さんが好き嫌いすると大きくなれないって言ってたよ」
「うるせぇ。もうでかくならなくていい」
呆れ顔をするコリンの頭をぐりぐり撫でると、「何するんだよ!」とコリンは怒った。可愛がってるのに怒るとは、子供って意味不明だ。
「シチューもあるって書いてありますし、とりあえず入りましょ」
ペンギンになだめられてローたちはパン屋に入った。店内どこを見回してもパンばかりで、ますますローは渋面を作る。
昼食時から少し外れているせいか、幸い席は空いていた。おやつの時間にはちょうどいいせいか、子どもたちは「これ頼んでもいい?」と菓子パンに目を輝かせる。
「太らせたほうがベポも食い出があるな」
「キャプテンそのネタ引っ張らないでよ……」
シャチが「キャプテンがおごってくれるって」とかなりの意訳をし、子供たちは遠慮もなくトレーにたくさんパンを載せた。
「おや。見かけない顔だね」
シチューを運んできた丸メガネの中年女性が、シロクマを見つけて目を白黒させた。
「あんたその着ぐるみ脱がないと食べられないんじゃないかい」
「着ぐるみじゃないもん」
ベポの存在意義はスルーして、ローは店主に尋ねた。
「ここ米はねぇのか」
「うちはパン屋だよ。……あるけど」
「あるの!?」
たまたまね、と店主クレアは厨房から握りたてのおにぎりを持ってきてくれた。満足してローはやっと食事を始める。
「好き嫌いしちゃいけないのよ」
「俺に説教するならパン返せ」
大人げなくローが言い放つと、さっとアリスは自分のおやつを隠した。
「自分じゃ食べないくせに!」
「ベポが食うから問題ない」
「俺そんなに食べないよ」
「いつもの食欲はどうした」
「これが普通だもん」
普通ではなく、明らかにベポの食欲は落ちていた。食べるのが大好きなシロクマが、焼きたてのパンをもそもそと食べる姿はあまりに痛々しい。
にも食べさせてあげたかったなぁと小さなつぶやきに、なにか察してアリスがベポをナデナデした。
「旅の人かい? よく来たもんだね。大潮の日は数百メートルも滝ができるだろう」
「やっぱり普段はもっと安全なのか」
「滝といっても数メートルだね。腕のいい船乗りなら超えられる高ささ」