第11章 死者の夢
99.アリスとコリン
「アリスに触るな! た、食べる気だろ! 街は襲わせないからな!!」
オモチャの木剣を構えていたのは、同じ年頃の少年だった。コリン、と少女が声を上げる。
木剣で切られたベポが少女を片手で抱えたまま、痛い、と腰をさすった。
「……ベポ、エサがもう一匹来たぞ」
ローが脅すと、コリンと呼ばれた少年は「ひっ」と顔を青ざめさせた。
「キャプテン、子供いじめないでくださいよ……」
シャチがたしなめるが、ローは飄々と言い返した。
「痩せちまった分、取り戻さないといけねぇだろ。……いいか、クソガキ。ちょっと前まで、ベポの腹はこの3倍はあったんだ。お前なんかひと口だぞ」
コリンは泣き出しそうな顔をした。
「私、食べられちゃうの?」
ベポの腕の中で、アリスも涙ぐんだ。
「食べないよ!」
「せ、せめてミケで我慢して」
「フニャ!?」
コリンに差し出されたチェシャ猫が、「裏切り者!」と言わんばかりの目でコリンを見た。
「んん? これどっちの猫なんだ」
だらーんと垂れ下がる猫をつまみながら、ローは尋ねた。透明になれると言っても質量が消えてなくなるわけではないので、ミケは逃げられず愛想を振りまいているらしいニタニタ笑いを浮かべている。
「ミケはコリンの猫よ。商人の私のお父さんが、仕事の帰りによその島でお土産に拾ってきたの」
「……不気味な土産だな」
リボンの結ばれた箱からニヤニヤ笑う猫が飛び出したら、シャチあたりは悲鳴を上げて腰を抜かしそうだ。
ローが逃がすと猫はすぐ透明になって、恨みがましい目と耳まで裂けた笑みを最後に消えた。
「た、食べないの?」
「あんな不気味な猫より、うまい飯屋で飯が食いたい」
どうやら侵略に来たわけじゃないらしいと気づいて、コリンは木剣を下ろした。
「……お前意地悪だぞ。嫌なやつだな」
「海賊なんでね」
なんで木製とは言え武器を向けてくる子供に優しくしなきゃならんのか。ごめんね、とベポが代わりに謝った。
「キャプテン最近振られて、機嫌悪いんだ」
ああ~、と二人はうなずいた。
「おい!!」
事実でしょ、とペンギンとシャチまで言い出す始末だ。
「何なんだお前ら。俺になんか言いたいことでもあんのか」
「俺たち怒ってるんだよ」
ベポが珍しく眉毛を吊り上げて抗議してくる。