第11章 死者の夢
「うぎゃー!」
「この! 先輩になんてことを!!」
新入りの一人が猫に飛びかかる。ふっと消えて、猫は次の瞬間、上甲板の手すりにいた。
「えええ、キャプテンみたい!」
びっくりするベポたちを薄ら笑いを浮かべて見下ろし、猫は「愚かな人間たちめ」と甲高い声で鳴いた。
「喋った!?」
これには全員が仰天した。
「果てない欲望に突き動かされて骨になりに来たか。まったくもって度し難い。人間という生き物は愚かの極みの凝縮だ」
チェシャ猫。ニヤケ猫とも呼ばれる、人語を喋る猫だ。透明になれるという特性があり、人間を驚かせては薄気味悪く笑っているというのでこの名がついた。
その言葉はオウムのように覚えたことを意味なくつなぎ合わせているだけとも、未来を予見しているとも言われている。
ローが視線をやると、チェシャ猫はさっと消えて、それきり姿を見せなかった。昔から猫とは相性が悪いのだ。
『猫ちゃん逃げちゃうから、キャプテン睨まないで』
セブタン島で野良猫と遊ぶに散々言われた。別に睨んでいるのつもりなんかないのに、動物はすべからくに懐き、ローには毛を逆立てて威嚇するか逃げ出すというのがパターン化していた。
「なんだったんですかね。猫の歓迎?」
「え、骨になるとか言ってなかった……?」
不気味な猫が残した言葉を気にして、クルーたちはざわついた。考えても仕方ないので、ローは次の指示を出す。
「港があるな。そこに停泊しろ」
「アイアイ!」
山に囲まれた盆地の中に街はあった。オレンジ色のレンガの家が立ち並ぶ、普通の街だ。
「わ、海賊?」
チェシャ猫を抱えた少女が、港でぽかんとドクロの描かれた船を見つめていた。
「……っ」
8歳位の少女に、古参のメンバーはみんな息を呑んだ。ピンクがかった金髪をお下げにした少女は、によく似ていたのだ。
「ねぇねぇ、あなたたち、どこから来たの? ドクロがついてるってことは海賊でしょ? 本で読んだから知ってるわ!」
好奇心旺盛なところまでにそっくりだった。
甲板から飛び降り、ローは「この島は?」と少女に尋ねる。