第11章 死者の夢
「ぼさっとするな! 上のからの海流に捕まればそのまま海底まで押し込まれて水圧でつぶされるぞ! 急いで滝の流れのない場所まで移動しろ!」
危機はまだ去っていないことに気づき、クルーたちは慌てて走り回った。
たださえソナーのいない潜水は危険極まりなかった。潜望鏡での確認には限界があるのを理解しながら、やれる範囲で全力を尽くすしかない。
ソナー席から転がり落ちたシロクマのぬいぐるみをの自席に戻してやる余裕が出来る頃には、ポーラータングはなんとか危機を脱していた。
「……船長がかっこよくても何に勝てないって?」
「すいませんでした」
意地悪く蒸し返すシャチに、新入りたちはそろって土下座した。
「落下中、死んだじーちゃんと会ったよ……」
「僕も母さんに会った気がする……」
口々に語る仲間を見て、ベポが首をかしげた。
「これが死者に会えるってことかな」
マジか、とみんな絶句した。
(俺は会ってない……)
それどころじゃなかったローは密かに呆然とした。コラさんももまったく出てくる気配がなかった。こんなの伝説詐欺じゃないのか。
「ええと……街があるみたいですけど、行きます?」
沈む船長を見かねてペンギンが遠慮がちに尋ねる。「ああ」とローは力なくうなずいた。
伝説なんてこんなものかと思いながら、それでも失望はぬぐえない。
城壁のような山脈の中は、ドーナツのように丸く入り江が広がっていた。
「すごい……絶景だな」
切り立った岩の上から、大量の海水が滝となって流れ落ちてくる。虹すら浮かび上がる一面の滝は、圧巻と言わざるを得なかった。
「にも見せてあげたかったなぁ……」
ぽつりとベポがつぶやき、「は見えないだろ」とみんなから突っ込まれた。
「そんなことないよ。水しぶきとか音は、だって見えるもん」
一緒になってはしゃぐ姿が誰の頭にも浮かび、そうだな、と彼らは同意した。
「フニャ……キャキャキャッ」
不気味な笑い声にぎょっとして振り返ると、いつの間にか薄気味の悪いニヤニヤ笑いを浮かべた縞柄の猫が、甲板の手すりに座ってゆらゆらと長いしっぽを揺らしていた
「なんだこいつ」
追い払おうと手を出したシャチが、がぶりと噛まれた。