第11章 死者の夢
98.滝の底
「なんで海に滝がー!!?」
目の前に広がる信じがたい光景にブリッジでクルーたちは悲鳴を上げた。
目前にはエターナルポースが指し示す伝説の島。だが島は2枚の城壁のような山脈で囲われ、唯一の入り江はすこぶる狭い。
満潮で押し寄せた海流が入り切らずに、巨大な瀑布になっていた。
「機関室! エンジン全開!! 全力で後退しろ!!」
「とっくに全力ですよ!!」
伝声管から流れてくる状況報告はパニックばかりだった。ポーラータングは全力でエンジンを吹かしても凄まじい海流の流れに抗いきれず、じりじりと落差数百メートルの滝に向かって流されている。
「機関室! もっと頑張ってー!」
「とっくオーバーヒートだよ!! エンジンが爆発しそうなんだ!!」
船の設備にしがみつきながら、クルーたちは悲鳴を上げた。
「こんな船乗るんじゃなかったー!」
「いくら船長がかっこよくても海には勝てない!!」
「うるせーお前ら!!」
「こんなんグランドラインじゃ常識だっての!!」
弱音を吐いているのはサン・マロウで乗船した新入りで、それを叱咤しているのはペンギンやシャチを始めとした古参のクルーだった。もっとも彼らも歯をガチガチ震わせながらメインマストにしがみついているので、あまり頼れるクルー感はなかった。
「あ、キャプテン!?」
滝壺に向かって真っ逆さまの運命から逃れられないポーラータングを見かねて、ローは傾く船内で抜群の運動神経を発揮し、甲板へ走った。
「落ちるー!!」
飛び散る水蒸気が雨のように叩きつける。一瞬の浮遊感のあと、ポーラータングは滝からはじき出されて、深い奈落の底へと落下を始めた。
「潜水用意! 全員手近なものにしがみつけ!!」
「とっくにしがみついてます!!」
甲板からの船長の指示に、大合唱が返ってきた。
「ROOM――!!」
片手で甲板の手すりを握りしめながら、ローは能力領域を広げた。船全体を包み込み、滝壺に浮いた魚と船を入れ替える。
「うわぁ!!?」
落下の勢いまでは殺せず、ポーラータングはそのまま滝壺の中へと突っ込んだ。
間一髪でブリッジに瞬間移動したローは、「助かったの?」と混乱するクルーたちを叱咤した。