第3章 セイロウ島
ブーツのサイズがぴったりで店先できゃーきゃー騒いでいるをローは大声で呼んだ。
「! こっち来て好きなの選べ!」
宝物みたいにブーツを抱えて、スキップしそうな足取りでは店の中に入ってくる。
「気をつけろよ、棚倒したら弁償だからな」
脅すととたんには縮み上がって、手で前を探り探り、そろそろと進み始める。その手を捕まえて、ローはを引っ張った。
「キャプテンってたまに意地悪だわ」
「ただの忠告だろ。忠告したとたんに棚を倒すような人を知ってるからな、は大したもんだよ」
褒め殺して機嫌を取るつもりだったが、見抜かれていたのかはぷいっと横を向いてしまった。でもまんざらでもないようで、口元はゆるんでいる。それを見てローは吹き出しそうになるのを懸命にこらえた。
「杖が必要なのお嬢ちゃんかい?」
奥から在庫を抱えてやってきた店主は、を見て目を丸くした。
「そう」
「そうか……若いのに苦労をしてるね」
店主が杖を床に置いたのを頼りに、は手探りで杖を選び始める。
「……でもキャプテン、杖をどうするの? 私、足は悪くないよ」
「杖で足元を探っとけば、転ぶ前に段差がわかるだろ。それに杖で常に音を出しながら歩けば、反響音で周りが見える。ソナーと一緒だ。陸でも活躍する一流のソナーになりたくねぇか?」
「なりたい!」
やる気満々で、は自分の目になる杖を真剣に選び始めた。実際のところ、杖の反響音で周りを見る視覚障害者がいるというのはローも文献で見ただけで、正直半信半疑だった。
だがネモ博士のシステムと同じで、理論的には可能なはずだ。の『聴き分け』の精度は見事なものだった。雑多な音が混在する海中で、どんなに遠く小さくても目的の音を聴き分けて方位を割り出し、距離を割り出して危険を知らせ、船の安全とクルーの命を守る優秀なソナー。
にならきっとやれるはずだ。
「……俺の船に乗るなら、は世界一のソナーを目指せよ」
「うん!」
様々な杖の中からが選んだのは、渋い木彫りの杖だった。