第10章 お別れ
(何も考えずにあのときは受け取っちまったが……悪いことしたな)
海賊に襲われて何もかも奪われた彼女に唯一残ったものだったのに。船に乗るのを怖がっていたようだから必要なかったのかもしれないが、返してやるべきだったとため息が出る。
(確か死者に会える島だとか言ってたな――)
信じてなんかいないのに、ふっと何かが浮かんだ。
いつだって笑ってローの話を聞いてくれた大恩人のこと。無性に会いたいと思った。会ってのことを話したい。
バカをやって失ってしまった彼女のことをコラさんに相談したいと思った瞬間、それは押さえつけようもないほど強く、ローの中で膨れ上がった。
「……っ」
エターナルポースを持ってブリッジに向かう。ベポを中心として、まだ彼らは魚人島にどうやって行くか頭を悩ませていた。
「進路変更だ。ベポ、こいつの指す島へ向かえ」
エターナルポースを投げると、ベポはきょとんとした。
「これ、どこの島なの?」
「さあ」
クルーの視線が集中し、「行けばわかるだろ」とローは付け足した。
魚人島への行き方もわからないし、船長命令だしと、特に疑うこともなくベポは航路を指示し始めた。
「どうしたんですか、あのエターナルポース」
ペンギンに話しかけられ、「ちょっと前にもらった」とローはざっくりと答えた。
「その島に何かあるんですか?」
「さあ。それも行けばわかるだろ」
何もなくても構わなかった。そう言ってカナリアに返せばいい。死者に会えると言われる島に何があるか確かめるだけでも、行く価値はあるだろう。
こんな気持ちで新世界に行けなかった。ドフラミンゴに勝つビジョンも浮かばない。何かきっかけが欲しくて、藁にもすがる思いだった。