第10章 お別れ
97.名のない永久指針
ベポの大泣きする声で目を覚ました。そしてバタバタとクルーたちが走り回る音。
が他の顔なじみにも別れを告げたのだろう。飛び交う彼女の名前に、それを確信する。
力なくローは顔を覆った。
(何も言えなかった……)
別れの言葉も、感謝も、何一つ。最後の機会だったのに――。
◇◆◇
が去っても船は進み、数週間後、巨大な壁が行く手に現れた。
天を衝く赤い岸壁――レッドラインだ。航海が半分終わったことを目の当たりにしても、浮かぶのは未練ばかりだった。
(反対側を越えたときは、が居たのにな……)
別れを受け入れても後悔は尽きなかった。誰も代わりになんかなれない。ふとした瞬間にやっぱり好きだと、どうにか取り戻したいと考えてしまう。
のいない旅路は無意味で、間違っているように感じてしまうのだ。
「この先は新世界ですね」
「でもどうやって行けばいいんだろう……」
下を向く指針に、クルーは顔を突き合わせて頭を悩ませている。
「……誰かに聞くしかねぇだろう。船か島か、適当に流して探せ」
航海にも上陸にも、心が動かない。ドフラミンゴを殺して早く終わりたいとすら思うようになった。
奴を殺し、残った体であとはのそばに居たい。何も言ってくれなくても、もう何も伝えられなくても、今よりまだ寂しさは埋まるはずだから。
気遣うクルーの視線が痛くて、適当な理由をつけてローは自室に引っ込んだ。
が別れを告げに来たあの日から、クルーはいつもそういう目でローを見る。心配されているのはわかっても、居心地が悪くて仕方なかった。
この頃はこうして部屋に閉じこもることが増えた。別に何をするわけでもなく、イスに座って窓の外を見るだけ。何も考えたくない――。
部屋の隅で何かが転がる音がして、無意識にローはそれを拾った。
指針の浮いた丸いガラス玉。島名のないエターナルポースだった。
(なんだこれ……)
エターナルポースはブリッジでベポが一括管理している。覚えのないエターナルポースにローは困惑したが、しばらくして、カナリアにもらったものだと思い出す。
物入れに放り込んでそのままだったのが、船の揺れで転がり落ちたらしかった。