第10章 お別れ
念のため船番を二人に増やし、あとの者は滞在中、自由時間とした。海賊相手の商売が盛んな島なので、楽しみ方は色々とあった。
(リーザタウンに似てるな……)
海賊の吹き溜まりの街。ここはまるで、に初めて会った北の海のあの街みたいだった。
だがリーザタウンの住人が海賊に怯え、息を殺して暮らしていたのとは対象的に、サン・マロウは海賊たちの嘲りを響かせながらにぎやかだった。
「お兄さん、寄って行かない?」
下着姿の美女たちが、妖艶な笑みを浮かべて手を振っていた。
「……サロン・キティの分館か」
看板を見上げてげんなりとローはつぶやいた。
「あらやだ。お兄さんセイロウ島に行ったの?」
「マダムの知り合い? ならサービスするわ!」
ローの手を取って豊満な胸を押し付けながら、美女たちは中に引っ張り込もうとする。「あとでな」とうんざり言って、ローは手を引き抜いた。
「サービスするのにー」
「昼間から素面で娼館に行けるか」
「じゃあ程よく出来上がったらまた来てね。約束よ?」
まだ若い娼婦はにこにこ笑ってローの頬にキスし、通りの先の「三匹の子豚亭」という酒場が安くてうまいと教えてくれた。
「絶対あとでまた来てね!」
黄色い声を上げる若い娼婦に、振り返りもせずにおざなりに手だけ振る。
を失ってとてもそんな気分になれないのに、体は人肌恋しくてならなかった。あの柔らかな肌も、心地いいぬくもりも、もう二度とこの手には戻らないのだと思うと耐えられない。自分の弱さに驚くと同時に、本当にのことが好きだったんだと再認識してしまう。
三匹の子豚亭は娼婦の勧め通り評判がいいのか、多くの海賊たちで賑わっていた。店に入った瞬間の値踏みするような視線にかまうのも面倒で、ローは空いたカウンターに座る。
「トラファルガー・ローだ……」
「北の海の死の外科医……」
「鎖鞭のシェレンベルクを拷問して船に火を付けた野郎だろ。イカれてるぜ……」
薄気味悪そうに見てくる店主に食事と酒を注文し、ローは噂話は無視した。視線一つで彼らが気まずげに黙ったのもあり、苛立ちを抑える努力をする。
だが努力もむなしく、突然、表が騒がしくなった。