第10章 お別れ
92.サン・マロウ
『ミニベポに見てもらうね』
自室をかねる診察室でローを出迎えたのは、お気に入りのベポそっくりのぬいぐるみだった。
いつも彼女が手放そうとしないぬいぐるみに嫉妬していたのに、それを救いのように思う日が来るなんて思ってもみなかった。
の自席だったブリッジのソナー席に座らせてやると、クルーたちはみんな涙ぐんで、鼻をすすった。
ポーラータングは優秀なソナーを失い、再び潜水艇としての機能を失った。潜ることのできない船に、グランドラインの天候は容赦なく牙をむく。
「岩礁と接触! 船底から浸水!」
「隔壁閉鎖! 応急処置急げ!」
ヘイアン国を出港してから八日。シケに続くシケでハートの海賊団のクルーたちはおちおち眠る間もなかった。
嵐によって進路から流され、乗り切っても進路に戻る前に次の嵐が来る。まるでローたちを先に行かせまいとするかのように、嵐は続いた。
「キャプテン、海に明かりが……っ! 灯台です!!」
「船を寄せろ! 嵐が収まるまで避難だ……っ」
命からがら近くにあった島に逃げ込んだのはいいものの、船の損傷は激しく、しばらくの寄港を余儀なくされた。
島の名はダイナ。海流の関係で船が流れ着く、掃き溜めのような島だった。
ローたちが滞在することになったのは、島の東側にある港町サン・マロウ。灯台があり、生きた船がたどり着く島で唯一の街だった。
対して島の反対側には、年中吹き荒れる嵐によって破壊された船の残骸が流れ着く。島の人間たちはそうした船を解体し、木材を売ることで生計を立てているらしい。
「大海賊時代のせいかおかげか、島に流れ着く船はぐっと増えたよ。大体が海賊船だが、人が来れば商売になる。海賊のおかげでこの島は以前よりずっと活気にあふれるようになった。皮肉な話だ」
そう語ったのは、船の修理を依頼した街の船大工だった。嵐にやられた船が流れ着く島なので、この島では船の整備員も多いらしい。
その一方で船が大破し、グランドラインの先へ行くすべを失った海賊も数多くこの島には流れ着く。時に目をつけた船を奪い取ることも珍しくないから気をつけろと助言された。